「聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語」ファンタジーと思わせ正統派に推理の物語

★★★★☆,角川文庫ファンタジー,ミステリー,主従,新人賞

あらすじ

第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈奨励賞〉
王宮の謎を聖女が解き明かす!大注目の謎解きファンタジー。

霊が視える少女ヴィクトリアは、平和を司る〈アウレスタ神殿〉の聖女のひとり。しかし能力を疑われ、追放を言い渡される。そんな彼女の前に現れたのは、辺境の騎士アドラス。「俺が“皇子ではない”ことを君の力で証明してほしい」この奇妙な依頼から、ヴィクトリアはアドラスと共に彼の故郷へ向かい、出生の秘密を調べ始めるが、それは陰謀の絡む帝位継承争いの幕開けだった。皇帝妃が遺した手紙、20年前に殺された皇子――王宮の謎を聖女が解き明かすファンタジー!

めちゃくちゃおもしろかった!!
冒頭から霊が視えるという能力持ち主人公の追放モノと思わせて、かなり正統派に証拠を揃えての推理ものになっていくのがもうめっちゃ面白かった。ファンタジー部分も推理の要素の一部分でしか無く、物事を一気に解決する必殺技に使われるわけでもないのが面白かった。

『真実』を見抜く主人公

物見の聖女という名前を賜り、しかし霊を視ることぐらいしか出来ない、しかもたった今聖女の立場を奪われ追放されかけの主人公。
しかし実際のところ、主人公の能力の本質部分は、幼い頃から師匠である聖女に鍛えられたお陰で物事を多角的に視る能力に長けていて、そのお陰で状況を推理し組み立てていき『真実』を見抜く部分にある、というのがめっちゃ面白かった。

作中では呪いや霊を視る能力が出てくる。その他でも、聖女たちによってはすげー火炎放射かなにかぶっ放すっぽかったり未来視が出来たりもあるっぽいんだけど、そういう小細工や必殺技は使わず、証拠の組み合わせから真実にたどり着く流れがめちゃくちゃおもしろかった。

『真実』と人々の秩序と安寧の『嘘』

主人公は、自分にとって大事な人や頼ってくれた人に不利益な出来事だろうとそれが『真実』であるならば『真実』として見抜いて伝える。

対して、現在の筆頭聖女であるオルタナは違う。

「例えば貴殿は、自分が本当に皇子だったらどうするつもりだ? その事実が一度公のものとなれば、帝国内の勢力図は著しく塗り替えられ、血も多く流れることだろう。……だがそれが分かっていても、あれが事実を偽ることはない。先見の聖女も物見の聖女も、真実こそが至上と考えているからな」
 試すようなオルタナの問いに、アドラスは片眉を上げた。
「あなたなら、そうはならないと?」
「我々の目的は神の子らの救済であって、真実の探求ではない。たとえ真実を捻じ曲げることになろうと、人々の秩序と安寧を優先しよう」

都合よく捻じ曲げられた、けれども諍いにならない『嘘』。

疫病が発生したときに地域一帯燃やし尽くして蔓延を防ぐような神殿のあり方としては、秩序と安寧のための嘘をつくオルタナのほうが、立場や言動、行動としては正しいのかもしれない。
でも、自分の出生の真実を求めるアドラスからしたら、それは求めるものではない。

「秩序と安寧のためならば、真実を曲げても構わないとあなたは言う。だが、その安寧とやらは誰にとってのものだ? 俺か? 帝国貴族か? 東部の民か? 真実が明らかとなった時、あなたは誰にとっての利益を優先する? あなたに選ばれなかった者たちはどうなる?」

アドラスの言うこれが正しいというか、物語的には正しいんだよな。

主人公は真実のみを伝える。なんなら語るときになるべく自分のこうであってほしいという勝手な動機づけは加えないようにもする。
真実は事実としてそこにあるものであり、それを知った人がどうするかはその人達の手に委ねられる。だからある意味最も物事に手を加えない形とも言える。内政干渉をすると揶揄される神殿とは真逆の選択だよねこれ。

終盤にアドラスが真実を捻じ曲げて自分が司祭を殺したと罪をひっかぶろうとする(それが最も自分以外の人の被害が少なく済むとそそのかされたために)シーンがあるけれども、あれも秩序と安寧のために真実を曲げることであり、上記の問いかけをオルタナにしているアドラスこそが自分や叔父たちを選んで安寧を選び取るために真実を犠牲にしたの、対比として面白かった。

ファンタジーだけど要素は推理の証拠にしかならない

読み終えてから気づいたんだけど、主人公、霊を視る能力はあるけどそれって事件になんにも関わってないどころか霊を視る能力ほとんど使ってないじゃん!!! 主人公の能力、真実を見抜く力であって、霊を視る能力はおまけというかなんというか……だったの、そう来る!?と笑ってしまった。

作中で呪いや霊が視えるといった能力が出てくるけれども、真実を知る霊を今ここで呼び寄せて証言させます!といった必殺技的なものとして使われたりはしない。そもそも主人公は降霊術など使えないし、自分が視えた霊を他人に視せることなど出来ない。
むしろ、途中でベルタに言われたように、アドラスと懇意にしている主人公が「霊がこう言っています!」と証言したとしても主人公による虚言と認識されてもおかしくない。

というのを提示した上で、推理で導き出した結論の補強として使われたり証拠として使われるのが面白かった。ファンタジーなのに必殺技的な使われ方がしない、自白を促すための脅迫道具にしかなれないファンタジー、面白い。

ほんと最初から最後まで勢いもあったしキャラも面白いし話自体も最高にアガるし推理部分も面白いしで面白い話だった。

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