「株式会社シェフ工房 企画開発室」推しキッチン用品会社に入社したオタクの楽しそうなお仕事小説
あらすじ
「これを使えばあなたもシェフに」。美味しいレシピ満載の絶品グルメ小説!
札幌にあるキッチン用品メーカーに就職した新津。トング式ピーラー、計量お玉やメジャースプーン。ちょっと便利なアイディアグッズが人気の会社で、次なるヒット商品の開発に取り組むが……。製品知識のない営業マンや天才発明家の先輩、手厳しい製造担当など、一癖あるメンバーに囲まれて悪戦苦闘。やがて過去の挫折と向き合う中で自分を見つめ直していき――。読んで満腹、美味しいレシピ満載の絶品グルメ×お仕事小説!
すげーシンプルに良いお仕事本だった。この間上司を撲殺しようとするホラー系お仕事ザマァ本を読んだので、お仕事本の間でもギャップがすごい。
ヘイトがたまるような相手もおらず、最後の最後に出そうとしている製品が他社とかぶった!という問題は発生せど情報流出など人為的な悪意は無く、ストレス無く読める。それでいてSUGEEEEとかでもないので、シンプルに良い本だった。
ちなみにあらすじにあるようなレシピ部分はほとんど記憶に残らず、このキッチン用品ほしい!!ばっかりが記憶に残った。
全体的に言えば企画開発部署でのお仕事系なんだけど、企画開発部分自体の描写が多いわけではなく、自社の製品って便利なんだよーって自社製品愛を爆発させている主人公が楽しそうな姿を見るようなお話。社内は人間関係良いし社内もかなりホワイト。
読んでて思うんだけど、人間関係が良い会社って良いよね。頼れる室長、ちょっと変わってるけれども商品開発に関してはすごいひらめきを持つ先輩、ちょっと頼りなさもあるが身近なポジションで話を聞いてくれる3年目の先輩。仲良くお昼食べるような、この環境の良さが良い。
会社自体はあんまり大きくなくてそれこそよく嫌われるアットホームなんて言葉が似合う雰囲気出してはいるんだけど、新歓でみんなでワイワイやってるところからしてもほのぼのしていて良かった。
いちおう製造部の忠海さんがちょっと曲者っぽいキャラとしては出てくるんだけど、出てくる言葉は間違ってない(商品カラーが全体的にカラフルで男性は買いづらいなど)し、新津が泡だて器をどういう形で作れば良いかわからずにいたときに試作品をさらっと出してくれるような優しさ?もある。ついでにこの人、出町さんが落ち込むからと五味くんに嫌味と批判を投げつけるの、可愛げと嫌な奴のちょうど中間地点みたいな行動するから嫌いになれない。
ついでに会社のホワイトさ、終盤で『退勤が7時でもうへとへと』的な文章があり、ほ、ホワイト~~~~~~~~~~!!となってしまった。こないだ終電まで帰れない本を読んだ後に読むとあまりのホワイトさに目が潰れる。
主人公の新津が自社製品が好きだからこそ「これ実際にあって使ったら便利そうー!」がすごいリアルに想像できるし欲しくなる。オタクの布教能力すごい。怖い。
自社製品の良さをそこまで理解できていない料理しない系営業の茨戸とパフェつつきながらの会話、傍から見たら入社時期の近い男女が新歓の終わりに二人だけでこっそり夜パフェしに行っているという良い雰囲気の描写なんだけど、実際のところ自社製品オタクがすごい勢いで自社製品の良さを布教しているのとそれを営業活動に利用するために聞いている人の図なの面白すぎる。完全にオタクによる推し語り。
その後茨戸も次第に料理をするようになるんだけど、これって間違いなく使用者側の視点で「料理が出来ない人でもこれを使用することで料理ができるようになりました」と実例と経験を元にプレゼンしてくれたのがめっちゃ強いよね。どれもこれも読んでてこういう製品ほしいなとこっちまで思えてくるもん。とうきびピーラー、絶対に他に使い道ないとわかっていてもめっちゃほしい。絶対気持ち良いと思う。
好きなシーンは忠海さんにストーブ上用鍋について実際に使用して直談判しに行くシーンで、これはユーザー側の視点を持ってて自社製品大好きな新津だからこそ出来た行動だなーと思った。
実際に使ってみたからこそこういう部分が良いと語れるの、やっぱり強みだよ。
面白かったし同じ作者の別の本も読みたくなった。全部が可愛い。