「スタート!」果たして映画はオールアップ出来るのか、次から次へと訪れる難題

★★★☆☆,光文社お仕事,ミステリー

あらすじ

伝説的映画監督の大森が、新作『災厄の季節』を撮る!
若き助監督・宮藤映一も現場に臨むが、軽薄なプロデューサーや批判を繰り返す外部団体など周囲には難敵ばかり。軋轢に抗いながらの映画作りが進む中、スタジオで予期せぬ事故が発生!暗雲立ち込める状況で、完成に漕ぎ着けられるのか――。
映画への情熱と、どんでん返しの妙が織りなす、一気読み確実のミステリー!

面白かったー!!!

堅物大物映画監督が数年ぶりに撮る映画、そのために集まったスタッフたち、そして発生する無理難題(と死体)。果たして無事映画は撮れるのか!という状況が面白くないわけがなかった。

次々起きる事件と停止しかねない映画

最初は堅物監督に横槍入れてくるテレビ出身プロデューサーにねじ込みゴリ押し女優の週刊誌問題。テレビ出身プロデューサーが(物理的に)片付いたかと思いきや続いて彼が片付けられた事件問題、更には予算問題や殺人事件、最終的には監督が病に倒れと次々と問題が発生していくので読んでいて止まらなかった。

特に精神障害者がおそらくは犯人と思われる映画だからと、関連団体が抗議を入れる部分の描写。
そういうのはどうしたって必ず一部の人の反感を買うし抗議も発生するだろう。主人公は抗議団体を嫌な奴ら程度にしか認識してないけれども家族に持つ人達としては、映画という話題性あるエンタメで精神障害者はこうと描かれてしまったらそれは違うと一言言いたくなるし、申し送りや抗議もすることだってあるかもしれない。その弁護士が御子柴礼司シリーズに出てくるろくでもねえ弁護士の宝来弁護士なのはわらったけど。お前売れないからといってこっち方面に手を伸ばしたのか……。

作者的にミステリーとどんでん返しだし事件は当然あるんだろうけれども、それ以上にこの映画本当にちゃんと上映までたどり着けるのか?的なドキドキがあって面白かった。

マネで妹の子がなんの裏もないのは意外。元々の制作的に無名でも雰囲気が合えばOKという方向性だから彼女になるの自体は違和感ないけれども、この作者だから妹さんになるのも彼女の思惑孕んだどんでん返しがあるのかと思ってた。

一人の天才的映画監督によって変化していく人々

ベタではあるんだけど、最初は跳ねっ返りで全然周囲の空気なんて読んでなくて自分は売れてる俳優!と思い込んでいる若手俳優が、厳しくも的確な監督の指摘と罵倒を受けているうちに、次第に演技というものに本気になっていくっていうのは熱いものがあった。ほんとベタではあるんだけど。

いくら怒鳴りつけられてもベテラン俳優に話を聞いてでも吸収していこうとする俳優、最初は舐めてる様子だったのに脚が折れてでも現場に戻ってくる女優の2人の変化がもうめっちゃ熱かった。

局で売出中の女優のシーンを増やしたいがために脚本を脚本家に伝えず大幅変更し、それに激怒した脚本家が殴り込みに来るあたりからもう一気に面白くなるんだよね。この脚本家自体は基本的には監督と同じ人種で監督と同じ方向性に行くんだろうなというのはわかるが、この座組の状況がマジでやばいのが一気に察せられる。
そして彼が仕事もやばいのにこの座組の撮影現場に居座ってしまうあたりに、この監督に魅入られてしまったというのが出ている。このあたりの、読者側がよくわかんなくとも監督に魅力があるというのを読んでて叩き込まれるこの感じ、かなり面白かった。

実際監督自体も魅力的なのはわかるんだよ。横暴ながらも撮る映像は逸品で、ケレン味もプライドもある発言や嫌味の応酬、病を押しても自らの撮りたい絵を撮るという気の強さ。むちゃくちゃだけれども、それだけのものを作るだけの才能があり、そして役者を撮りたい映像のために駒のように扱うものの妙な説得力があるのも読んでて伝わってくる。 その描写に説得力をもたせるのが、次第に心酔していく他の人々って感じで。

この監督の下についているとどうしてもそうなってしまう、というのがわかりやすかったし、異分子であるテレビ局から来たプロデューサー二人の疎外感が際立ってた。

事件を調べる刑事である宮藤、出てきてから気づいたけどこないだ読んだ秋山善吉工務店に出てきた刑事だ。あっちは彼視点があるがこっちは無いというのに、秋山善吉工務店に出てきたときより印象深かった。
そもそも古手川くんが別シリーズによく顔を出すキャラだよね。お前!となった。

またこのオチ?的な感じはたしかにあった

この作者で『相性の悪い二人を同じ空間にいるように仕向けた、それで事件が起きればよかったし、置きなくとも良かった。可能性が高い状態にしたが、自分は実際手を下してはいない』という状況にする話、他にも読んだことがあるなー。

この立場の人間って黒幕とはパッと見分かりづらいし、どんでん返しが売りの作者的には使いやすいやり口なのかもしれないが、読んでいてまた?という感じがあった。

女性に対する固定観念の強さもすげー感じる。ああこういうシーンでそういうド固定観念書くんですね、みたいなところが何箇所かあった。

あと言葉が古いのがな。耳をダンボに、うちの親が使うのは聞くけど同年代が使うのを聞いたことがない。こういうのがちょっと引っかかった。耳をダンボ、マジで言葉が古い。
リポーターはそこそこ若いのかな?と思いながら読んでいたので、耳をダンボでマジか……?古くね……?これまさかの50~60代のキャラか……?となった。

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