「有名VTuberの兄だけど、何故か俺が有名になっていた #1 妹が配信を切り忘れた (GA文庫)茨木野」超絶ガバガバ優しい世界
あらすじ
俺には義理の妹、いすずがいる。彼女は登録者数100万人突破の大人気VTuber【いすずワイン】。
そんな彼女がある日、配信を切り忘れ、俺との素の会話を世界中に流してしまう!
配信では生意気なメスガキを装おう【いすずワイン】だが、素のいすずは真逆。
毎日俺にべったりで「お兄ちゃんがいないと生きてけない!」と公言する引きこもりだった。
配信事故の切り抜き動画は拡散されバズり、そして――
何故か俺もVTuberとしてデビューすることになり!?
家計のためと軽い気持ちで引き受けたVTuberだが、生配信は何度やっても事故ばかり。
可愛い先輩とコラボをしても事故るし、なんなら妹も寝落ちする!
…なのに毎回高評価の連続で!?!?
正式デビュー前から登録者数30万人突破!?
「【ワインの兄貴(俺)】の事故は芸術」…って、お前ら俺の何に期待してるの!?
『小説家になろう』発、妹の配信事故から始まる成り上がりVTuberラブコメ!
うーん、面白いかどうかで言えばかなり微妙。兄妹のやりとりや配信のテンションは面白かったんだけれども、全体的にトントン拍子で良い方向に行き過ぎて、最終的に札束風呂に入ってそうだなこいつと思ってしまった。とっても優しい世界。
ところで万札で湯船を満たすにはいくら必要か デイリーポータルZによると札束風呂に必要な金額って3028万円ぐらいっぽい。今回兄妹の雑談配信で稼いだ金額がご祝儀もあるとはいえ200万円なので、あながち冗談ではなさそう。
トントン拍子にうまく行き過ぎ
Vtuberしてる妹の部屋に、配信終了したと思って(妹も思ってて)入ったらまだ繋がっていて、それによってメスガキVtuberやってた妹が素バレするわ主人公が人気になるわということから始まり、最終的に主人公がVtuberデビューするまでの物語。普段はメスガキで煽りプレイしてるいすずワインというVtuberが、お兄ちゃんが現れるとデレデレぽんこつ妹になっちゃうのは可愛い。
普段はメスガキでざーこ♡ざーこ♡煽りしてくる子がお兄ちゃんと一緒のときだけおにーちゃーん♡♡♡なんて可愛い子の声になったらギャップでメロメロになる。わかる。
お兄ちゃん自体はそこまでキャラが濃ゆいわけじゃないんだけど、妹が可愛くなるという相乗効果で人気になったという印象のほうが強いかな。なのでお兄ちゃんとしてデビューするのは大丈夫なのか?と思ったけれど、作中のファンたちは喜んでくれてるようなので良かったっぽい。
しかし、冒頭に書いたとおり、なんでもかんでもトントン拍子に行き過ぎてウーン……?
事故配信の内容自体、メスガキなりきりがしんどくなってきたいすずワインが好感度上げるためのやらせでやったんじゃないかと言われかねない状況だというのに、好感的に見てもらえて人気が上がり登録者数も爆増。一晩で25万人、数日で50万人増える。個人Vでもなく企業Vとして、主人公はあっという間にデビューも決まる。トップVtuberであるアルクとも速攻でコラボして、そちらも主人公ことワイン兄貴とコラボしたからということで登録者数が爆発的に増える。散々事故りまくってるし、キャラなりきりVtuberのキャラを剥がしたというある意味キャラ崩壊の張本人だというのに主人公はファンたちからもてはやされる。最終的には主人公は一芸に秀でた生徒として授業料はゼロになる。
これ、最終的には札束風呂に入るじゃないかなあというぐらい、ご都合主義で優しい世界すぎた。ノンストレスで読める成り上がり物語としては面白いのかもしれない。苦労も失敗もろくにない、ノンストレスハッピーエンド物語。
わたしがノンストレスハッピーエンド系があんまり好きじゃないので、このあたりがうまくいきすぎて、もう一波乱ぐらい発生してほしかったかも。主人公本当に何一つとして辛いことも乗り越えなきゃならないこともなしにぬるっと成功者になってる。
数字も馬鹿すぎ
登録者数もスパチャの額も、数字がなにもかもおかしいんだよなあ。もしかして総人口数が現代世界の10倍100倍ぐらいいるんなら理解できるけれども、そうじゃないなら人口の限界数的に無理やろがいと。
零美さんが、あの配信の影響を、懇切丁寧に説明してくれた。
たとえば世界トレンド一位を三日間独占し続けたとか、812プロの株価が一〇〇倍くらい上がったとか……。
初配信で、なんにもろくに用意しておらず、妹と雑談しながらファンネームとファンアートの呼び名を決めて、妹とイチャイチャ普段通りの会話を垂れ流した結果。優しい世界というよりも、もう馬鹿の世界な気がする。
そもそもこの世界のVtuber、プロ意識も身バレへの懸念も低すぎない? 配信切り忘れ多すぎ。切り忘れることでイベントを起こして素を見せるだとかいう物語上必要な処置というのは理解できてても、キャラクターがアホにしか見えなかった。
にしても、金がないときの一攫千金ドリームとして配信者やVtuberが使われる時代になってきたんだな。うまくあたるかはわからない、バズるかどうかの前に同接や再生数、登録者数が1桁の可能性だってある。それでもうまくあたったらかなりデカい。
けれどその分、身バレしたら面倒なことになるのも目に見えているし、私生活の切り売りが発生する。一昔まえのブログでのエッセイ漫画と近い枠で、あれよりハイリスクハイリターンなのかもしれない。
まあ、この話で身バレして可哀想な目にあってるの、ほぼ間違いなく冒頭で主人公を振った女子ことクスミだけど。ネットで本名晒された上に視聴者のなかにも彼女を知ってる人もいた。主人公はどういうわけか秒で人気になってしまったので、きっとクスミはこの後ネットの掲示板なりなんなりで本名も外見も晒されるでしょう。ザマァというよりもエグすぎない?冒頭でサラッと消費される可哀想なキャラとしては最悪な立ち位置すぎ。
チョロインしかいねえのか?
妹ちゃんはもともと主人公大好き勢。血が繋がってないのもあってガチ恋異性としてラブだけどお兄ちゃんには家族としてしか愛されてない。不憫だけど多分メインヒロイン。最初っから好感度は100%。視聴者には血縁だと思われているので配信中にデレても問題ない。
妹であるいすずはそういうものとしてもう良いんだけど、もう一人出てくるサブヒロインのアルクがチョロインというか、自分を人間という扱いをしてくれている人に慣れなさすぎてチョロすぎて不安だった。
主人公がアルクを知らないがためにただの普通の女子小学生ないしは女子中学生としてやりとりしてくれたためにおもしれー男として即刻惚れて、2回目に会うときには恋愛感情っぽいものを見せる。早い。早すぎる。なにかから助けるみたいなベタすぎる行動をしたわけでもないのに惚れられるの、流石に早すぎてこの子が不安になる。
別に世間の人間って、そう誰も彼もがテレビを見てるわけでもないし、Vtuberを見てるわけでもない。なのに主人公だけにこの反応って、もともと彼女が『世間の人間ってそういうもので自分をちやほやしてくるもの』として疑いの目で見てるのかななどと勝手に考えてしまった。だからちょっと道を譲られたら『自分が有名人だから』、声をかけられたら『自分が有名人だから』。そう思って距離を取って生きてきたからこそ、この社屋のなかならば誰もが自分を知っているはずと思った場所で一般人扱いされたことで惚れたのかな。
――などと考えないとおかしいやろこいつ……マジで人間に惚れる速度おかしすぎ……外見好みで一目惚れしたんだっって言われたほうがまだましだろ……ってレベルの速度感で惚れててやばかった。もっと人間と交流したほうが良いよ。
いすずワインとアルクくまくまのもともとのファンがキレたり反転アンチなったりしてそう。ワイン兄貴が発生してから俺が好きだったあの子がキャラ崩壊して好きだった姿がいなくなっちゃったって辛いよ。Vtuberは生身の人間だからこそキャラ変というか素を見せたことによって好きだった部分がなくなってしまうのは仕方ないとは言え、とくにいすずワインは180度変わってしまった。俺の好きだった子はもうどこにもいない。
このあたり、声優ラジオのウラオモテの2巻の内容で取り扱ってたけど、このVtuber兄は優しい世界だからみんなが受け入れてくれちゃうんだろうなあという悪い意味での信頼がある。