「ミュージカル 生きる」10/16マチネ シナリオはnot for meだがそれ以外がすべて最高

★★★☆☆,舞台

あらすじ

役所の市民課長・渡辺勘治(市村正親/鹿賀丈史)。
早くに妻を亡くしてからは男手一つで息子の光男(村井良大)を育てあげ、今は息子夫婦(光男の妻・一枝(May’n/唯月ふうか))と同居している。毎日毎日同じことの繰り返し、いわゆる“お役人”気質な助役(山西惇)を筆頭とする役所で、淡々と仕事をこなす日々である。

ある日、渡辺は自らが胃がんであり、残りの人生が長くないことを知る。自らの生涯を振り返ると、そこにあるのは、意味あることを何ひとつ成し遂げていない人生。愕然とした渡辺は、現実逃避のために大金をおろして夜の街に出る。しかし、30年間真面目一筋を貫いてきた渡辺には、金の使い道すらわからない。

そんなとき、一人出向いた小さな飲み屋で、売れない小説家(新納慎也/小西遼生)に出会う。渡辺の境遇に興味を持った彼は、“人生の楽しみを教えてやろう”と宣言し、2人は盛り場を何軒も渡り歩く。しかし、渡辺の心は一向に晴れず、募るのは虚しさばかり・・。

その翌日、渡辺の元を訪ねてきたのは、役所の若い女性事務員・小田切とよ(May’n/唯月ふうか)。はつらつとしたとよの初々しさに触れるうちに、渡辺は、自分の人生になかったものを見出すようになる。これからでも、自分に何かできることがあるのだろうか・・。渡辺は、第二の人生を歩みだす・・・。

公式サイトより引用

キャスト

渡辺勘治 役(ダブルキャスト)市村正親 鹿賀丈史

渡辺光男 役村井良大

小説家 役(ダブルキャスト)新納慎也 小西遼生

小田切とよ 役 / 渡辺一枝 役(ダブルキャスト)May’n 唯月ふうか

助役 役山西 惇

川口竜也 佐藤 誓 重田千穂子
治田敦 林アキラ 松原剛志 上野聖太 鎌田誠樹 砂塚健斗 高木裕和 福山康平 
飯野めぐみ あべこ 彩橋みゆ 五十嵐可絵 石井亜早実 河合篤子 中西彩加 竹内真里
高橋勝典 市川喬之

感想

見てきた人

  • 原作映画は見ていない
  • そもそもほぼ下調べせずに行った(キャストは2人程度しか把握してない)

友達のいないおっさんが偶然構ってくれた部下の女の子に構われたくて頑張る話

黒澤明原作というのでまあそこそこ面白いんだろうなぐらいの気分で行ったら、驚くほどにnot for meだった。
もしかしたら映画はもっと描写も違うのかもしれないが、少なくとも私は物語を面白いとは全く感じなかった。

お役所づとめで仕事一辺倒で過ごしてきた主人公が、胃癌と診断されて今更に人生楽しんでなかったことに気づき、また息子夫婦にも邪険にされたためになにかぱーっと金を使おうとするも使い方がわからない。
飲み屋で偶然であった売れない三文小説家に頼んで使い方を教えてもらうも、彼の言う『使い方』はどれも主人公の楽しむこととは違っている。
どうしたらいいかと悩む彼のところへ現れたのは、これからお役所をやめて工場づとめになるという部下の女の子。まだ若い彼女が構ってくれたので彼女にそのまま甘えて構ってもらおうとするも、しかしおっさんと若い女の組み合わせは目立つし悪い噂も立つ。彼女から疎ましがられてもそれでも彼女に構ってほしい。
しかしとある流れで主人公はなにか頑張ろうと思う。そこで思い出したのが公園を作って欲しいという市民の声。すでにそこに何を作るか計画は決まっているというのに公園を作るために主人公は胃癌をおして頑張るのだ。

というざっくりとした物語だと私は感じた。

これ見てて気になったのが、主人公が部下のとよに構ってもらおうとするあたり。
今までろくに友達も作ってこず趣味もなかったおっさんが、定年退職してからすることがなくて……というのに近いものを感じた。この人本当に友達も何もないんだね。いれば友達に相談できるものの、残念ながら誰もいないんだ。

とよにべったりなあたり、見ていて本当にうわあ……となった。
彼女に引っ張られて歩いているときは、戸惑いつつもまあ楽しくないわけではないのかなと思わなくもないが、でもめっちゃ楽しそうか?と言われればそうでもないんだよね。
おそらく主人公は物事の楽しみ方というのを知らない。だから一緒に遊んでてもとよとしても絶対楽しくないだろこのおっさん。よく付き合ってたな。映画一緒に見ているあたりも顕著で、映画で寝る主人公が、この人とよといたいだけで映画にはなんの興味もないんだなと思わされた。

これが同年代の女性相手だったらいいんだけど、とよが若い女の子だからうわあ……が倍増する。構ってくれる同年代がいないから年下の若い子に必死こいてすがりつくおっさん。
若くてはつらつとした少女がおっさんを引っ張っていく、という絵図にしたかったのはわかるんだけど、うわあ……とひたすら引く。
とよが嫌なものは嫌と明確に言える子で良かった(工場まで主人公が押しかけてきたシーン)。これで言えなかったら絶対めちゃくちゃ辛いでしょ。パワハラじゃん。

その後、主人公ととよが遊び歩いてるからって噂になってるけど、これ当然2人の耳にも入ってるだろ。
なのにとよを誘うのを止められない主人公、本当に友達とかそういうのいなくて人間関係の経験がゼロだなと思う。とよ絶対しんどいじゃん……。新しく就職した工場でも絶対嫌な噂出回ってるでしょ。

主人公が楽しみ方を理解できないのは、序盤に小説家に夜遊びを教えられても全然楽しめてないあたりから伝わっては来るんだよね。
楽しそうな小説家と違い、おろおろしながらひたすら困惑し続けている。女がスカートをふわっとさせるたびに困ったような(見えないけれどもおそらくは)赤面したようないたたまれないような反応をする。今までこういう遊びなんて一切したことなかったんだろう。友達もほぼいたことがなさそうだ。

だとしても、とよに対しての執着が見ていてきつい。
彼女に対してのシーンがあったせいで、公園作ろう!と思い当たるのも、彼女が近くに住んでるのがあるからだろうなと思っちゃったもん。

今まで全然家に知り合いなんて連れてこなかった父親が突然女連れてきて、しかもしばらくその女と仕事サボって遊び歩いてるという噂が出回ってた状況で光男があの反応するの、理解出来なくもない。
年齢差や態度を鑑みて、財産目当ての女と思うのも仕方ないだろうなと感じさせられる。

横車を押しまくって駄々をこねて成功させた

公園を作ろう!と決め、絶対悪い噂が出回っているだろうに平然と役所に帰ってこれる主人公、面の皮が厚い。よくこいつ苦情対応多そうな市民課でやっていけてるな……むしろ面の皮が厚いからこそやっていけてるのかもしれない。

自分が善と思い込んでいる『下水が溜まっている場所を埋め立てて公園を作る』という事業に手を出す主人公。
しかし同じ市民課の人間はほぼ手伝ってくれない。役所の人間の大半はあちらこちらへたらい回しをするばかり。これでは仕方ないと助役に直接提議書を提出しようと思う主人公。部下のたった一人だけが助役に提出するための提議書作成を手伝ってくれる。
助役は一向に話を聞いてくれない。実は彼は裏で後ろ暗い連中と組んでいて、公園を作って欲しいと思っていた土地に風俗店を作るつもりだったのだ。
それも知らず公園を作ってくれと繰り返す主人公。ボコボコにされるも、最後は小説家が主人公の知らない場所で手を貸してくれたこともあり、なんとか公園は作られることとなる。

このあたり、見ててハァ?となっちゃった。

一応今回の場合助役が悪役で後ろでヤクザとつながっており~という背景があったから良いものの、なかったらどうするつもりだったんだ。
また、本来だったら風俗店を建設するために用意されていた建材や人材は一体どうなったのか。序盤に光男が今は焼け跡に様々な建物を建てているから建材が足りていないと話しているのですぐに回す場所はあるだろう。だとしてもすでに決まっている内容をそんなかんたんに変えたら色んな場所に迷惑がかかってるだろうな……。
この風俗店で働く予定だった人たちもいる。確かに住宅地のど真ん中に風俗店はよろしくないかもしれないが、主人公(と小説家)が本来作るはずだったはずのものを変えたために迷惑を被った人は山のようにいただろう。
なのにただ「主人公さんはすごかったんだよ!」という美談のように収められるのは違和感を覚えた。

また、未だ公園になるという許可は出ていない土地で「ここには砂場。ここには滑り台」と市民に説明する市民課の人、あまりに仕事に対して雑すぎる。
決まってないのに言ったら最終的に役所に不満が向くと普通に考えてわかるだろう。今まで土木課や公園課で話を聞いてもらえなかったという悪感情が役所全体に向かってるんだから。

葬式のシーンで町の人たちが「話を聞いてくれたのは渡辺さんだけだった!」と言っているが、実際話を聞いてくれたのは主人公だけだろうが、手間をかけて様々な書類を準備して残業などをこなしつつ公園づくりをしたのは土木課含め他の課の人たちも同じなんだよね。
そういう意味で、最後のシーンで主人公ばかりが良い人とされているのに若干どころではなくもやった。

美談だ、美しい話だ、人は死ぬ前に何ができるのか、息子のためをおもって。
そんなあれこれを詰め込まれた美しい話のつもりだったんだろうけれど、私は友達のいないおっさんが若い女に構ってもらいたくて頑張って周囲の人に多大なる迷惑をかけて我儘を突き通した話に見えた。

報連相をしろ

光男~~~~~~~~!!!!
お前だ~~~~~~~!!!!

オヤジの!!!話を!!!聞け!!!だからラストに1回しか顔合わせたことのない変な青年にマウント取られるんだよ!!!!

歌・ビジュアル、全てが良い

ってさんざん文句つけたし言いたいことはたくさんあるんだけど!
シナリオ以外はもうものっっっっっっすごく!!!!!良かった!!!!!!!

ビジュアル!!!!!
主人公演じる市村さんの、仕事一辺倒という雰囲気の服装!ビジュアルでぱっと見でどういう人間か伝わってくるあのビジュアル、最高か!?すごすぎる。
セリフを話しているときはぼそぼそとして不安そう、なのに全然聞こえづらいということはまったくない声がすごい。また、うたう場所になった途端に主人公の雰囲気を残しつつ響く広がる歌声になるのが何これ~~~~~~~!!!!となった。えええめちゃくちゃに歌がうますぎる。

小説家の和服+マント?なのかな?のあのビジュアル!最高か!?
小西さん見るのフランケンシュタインぶりなんだけどめっっっっっっちゃ良かった……ビジュアルが神がかってた。いやほんと似合いますねそういう格好。ひたすら良かった。
歌は相変わらずうまいですねと。個人的には「今年中だ」と脅すとこの表情が最高に良すぎてビビった。好き。

あとはねーーーーーとよのMay’nさんがすっごく良かった!!!!
ぐぐってみたら結構アニメのタイアップやってる人なのかな。アニメ関係全然詳しくないからわかんないんだけどいやほんとめっちゃいい……。とよの、はつらつとして元気で明るく強気な若い女という雰囲気がすっっごい良かった。歌がすげえ伸びるの。なにこれってぐらい伸びててパなかった。

助役の山西惇さんは本当に全く調べてなかったのでダークホースで、すご! 似合う! 格好いい! えええ何この人!?!?!と終わってからパンフを二度見三度見してしまった。めちゃめちゃ格好良くない……? スタイリッシュ悪役。すごい良かった。

光男の村井さんは舞台で見るのは青真田再演ぶり?かな?今考えて見るともしかしたらミュージカル見たの初めてかも。歌ってるのは戦国鍋のライブで見た。
昔はもっと、舞台上でいなくてもいいときはモブになる人というイメージがあったんだけど、今回はどのシーンでもどこにいるのかわかって、役柄のせいかもしれないけど変わったなと思った。殺意の衝動と里見八犬伝(初演)あたりがその印象強かった。
全然父親の話を聞かない、ちょっとダークな面もあるキャラクターっていうのがすごく似合ってた。

オーケストラもひたすらすごくて!!!!!!!
音がめっちゃ重厚!!!マジこういう表現しか出来ないんだけど音楽が響くたびにぞわっとするぐらい格好良かった。重いし分厚い。良い。楽しい。すっごく楽しい!!!!!

私は物語が面白くないとガンガン眠くなるほう(日テレ里見八犬伝の序盤三角関係シーン、八王子ゾンビーズ、沓掛時次郎)、この話は物語が面白くなかろうと歌がめちゃくちゃに良かったから眠くなることなく集中して見ていられた。
全体的にスローテンポが少なくてアップテンポの曲が多いのもあるのかな。
体感だけど、歌が結構多い? でも歌があっても眠くなるときは眠くなる(八王子ゾンビーズでタンバリンのなか眠いが眠れずイライラした)ので、本当に歌が良いから集中して聞いていられるというのもあったかも。

もうめちゃくちゃに歌が良かった……。超良かった。

久しぶりの舞台はやっぱり楽しかった

アクタージュを読んだあとに舞台行きたすぎて泣いてたが、やっと行けた。

コロナが広まってきて初めて行く舞台。
どんなもんかと思ったが、思っていたよりも変わっていなかった。

入り口ではモニターに映るタイプの検温があった。
半券は入り口のスタッフさんに見せた上で自分でちぎって入れる形式だった。
アンケートは電子。代わりに自分のメアドなどを書いていれる紙(あとからQRコードで登録するのでも可)もあった。

けれど、席はまばらだったが平日マチネだからで、映画館のように一席明けてということもない。
演者さんたちがマスクをしているということもなく、普通の舞台にも思えた。

休憩時間中はアナウンスで「必要最低限の水分補給以外の飲食はご遠慮ください」と流れていたし、マスクをしてくれとも言われ続けていた。スタッフさんがマスクについての紙を持ってあるきまわっていた。

久々の舞台は楽しかった。
目の前で役者さんたち本人が動いて喋って歌ってた。同じ空気を吸ってた。楽しかった。目の前で熱量が放出されてた。
舞台ってこういうもんなんだよ。そうだよ舞台ってこうなんだよ。

一ヶ月ほど前にフランケンの円盤を見て、うわーーーカット割りが最高!神か!?天才!?見えなかった場所も見えるーーー!と騒いでいたけれども、舞台だと確かに遠目だがカメラに抜かれないような場所も見えるし、何より同じ場所にいる。叫ぶ声は空気を震わせて私の鼓膜に届くし、脳髄を揺らす。オーケストラの音楽は体に響く。
そうだよ舞台ってこうなんだよって何度も思った。ひたすらに、もう本当にひたすらに楽しかった。

前回行った舞台がコロナですべて止まる寸前のフランケンシュタインだったので、もうおそらく半年ぶりになる。楽しかった。そうだよ舞台ってこういうのだよ。

願わくば、舞台という文化がこのまま続きますように。

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