主人公になりそこねた男の物語
殺人空手を身に着けているからこそ、『家族が皆殺害されたとき、自分があそこにいればなにか出来たのではないか』と思っていた男の物語。
こういった鬱屈した主人公の話書かせると江波光則は強いなーという印象。淡々とした言葉が重なって描かれる心理描写が強い。
女の風俗は女の切り売り、男の工事現場の仕事は人生の切り売り。
切り売りできる時間の違いはあるが、やっていることとしては同じようなことなのでは? というあたりも面白いなと思うし読まされた。
人生の切り売りのほうが長くできるが、女の切り売りとどう違うんだろうね。
そして『なにか出来たのではないか』が後半になり目の前で彼女が殺されたことにより『何も出来なかった』に変化するのが本当に面白い。
いまひとつ消化不足での終わり
しかし、物語自体がいまひとつ消化不足なのは否めない。上下巻シリーズの上巻だけ読まされたときのような、盛り上がりはあるものの、でももっと行けるでしょう!?と言いたくなる期待が肩透かしを食らったときのような感覚。
これはわたしが江波光則作品をなんぼか読んでいるからこそ覚える感情だとは思うんだけど、でももっと江波光則作品ってどかんと来るんだよね。
パニッシュメントの爆発力と後半で殴り殺してくる雰囲気が好きなので本当に物足りなかった。
ちまちまと元カノの話を出しているあたりからも、続刊を出してそれを読ませたいんだろうなというのが地味に感じられた。
最近読んだので言うのなら甘城ブリリアントパークを読んだときみたいな、キャラ紹介である程度終わってしまったかのような消化不足。
ラスト、当然のように続刊に続いたので、一応買うけれどもこの状態だとうーん……という感じがある。
好きなキャラはコンちゃんです。ああいうキャラ好きにならない人間っていないでしょ!?と笑ってしまった。エレベーターでのやりとりが可愛いよ。