「魔法少女サン&ムーン~推定62歳~」推定62歳、実年齢76歳、余命3ヶ月の魔法少女のシリアスなコメディ

★★★★★,漫画バディ,友情,女性バディ,現代,魔法少女

魔法少女サン&ムーン~推定62歳~

魔法少女サン&ムーン~推定62歳~

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あらすじ

元魔法少女のかずことよしえ。
かずこはガンで余命3ヵ月だが、生まれてくる孫見たさに、
変身すると体の時間が止まるコンパクトの力を利用し、
延命のため再び変身する…!
見た目は少女、中身はBBAの異色魔法少女2人の女の一生。
まんがライフWINで反響を呼んだ衝撃作、待望のコミックス化!

ババア魔法少女だ! ババア魔法少女だぞ!!!
というノリができないぐらい、実はしっかりと重たい、けれどもそれをポップに見せかけている4コマ漫画だった。

そもそもあらすじの

かずこはガンで余命3ヵ月だが、生まれてくる孫見たさに、変身すると体の時間が止まるコンパクトの力を利用し、延命のため再び変身する…! 見た目は少女、中身はBBAの異色魔法少女2人の女の一生。

の時点でめちゃくちゃ重たい、それはそう。
でも重たいだけじゃなくて、じんわりと泣かせたり、ほんわかしたりと、こちらの感情をガンガンに揺さぶりつつ暖かで本当にこういうのに最近弱い。

魔法少女になれるコンパクトを手に入れてからというもの、動物を見ると「もしかして魔法少女の相棒動物では?」とコンパクトを差し出してみちゃったりしているのがものすごく可愛い。雰囲気的にかずこがそういうのしてるのはめっちゃわかるんだけど、よしえも後で一人のときに確かめてるのが可愛い。
いるよね、魔法少女のパートナーアニマル。まどマギのせいで悪の権化みたいな扱いされたりする時期もあったけれども、基本的には協力してくれる可愛いキャラクター。魔法少女になれたんならそういうのもいるかも! と期待するのもわかるし、確かめちゃう小学生も微笑ましいし、還暦すぎても確かめてしまう二人も微笑ましい。
預けたまま忘れてしまったレコードだったり、肩の力が抜けるような穏やかでポップなエピソードと、それでも薄暗く背後にある余命という設定の重さのギャップがすごくクる。

このよしえとかずこの女の友情の雰囲気がすげー好き。還暦すぎても顔を合わせられる距離感もだし、まだ若かった頃は「二人で永遠を生きよう!」って言い合っていて一緒に住んでいたというのに、よしえのほうが好きな男ができて同居を解消したいと言い出してしまうのも、ああ~……という感じがあった。その後よしえは離婚するも、かずこのほうは子供も孫もできて穏やかに暮らしているというのもまたなんとも。
そしてそんな別れ方をしたのにまた一緒に会って近況を話しているのも、かずこが余命を告げたときによしえが治療費頼まれたら出せるのにと思ってしまうところも。この【頼まれたら】なところがすごく好きで、押し付けるようなことはしないし出来ない。きっとかずこはそんなものを頼んでくれないだろうとわかっている。でも頼んでくれたらと考えてしまうのが切なかった。

中盤から描かれているとおり、彼女たちのしている【変身することで体の時間をある一定の地点まで戻し続ける】という行動は、逆を言えば【変身を止めることで自らの体の変化=死へ近づいていくことを受け入れる】ことである。変身を止めるのは自殺とも同じ。このあたりが重くて考えさせられた。
無限に未来があるうちは成長が止まるというものにしか見えないA地点の体の状態に戻る現象は、次第に老化していくうちに目の前にある死への道を踏み出さないということに繋がる。10代と還暦過ぎの時間の違いってそういうところにあるよね。同じ1日でも成長と老化は全然違う。
かずこの「子供が生まれてすぐに母親が死んだら大変だろうからもう少し変身続けて生きよう」というのは死んでほしくないからというのはわかる。わかるからこそ、よしえの「人として死にたいから変身を止める」という選択が重たかった。

よしえが一人で身辺整理してるコマがすげえ重たいんだよ。
もうすぐ来る寿命に向けて身の回りのものを片付けて、自分の死に向き合って、もう自分は長くないと確認しながら過去の思い出にひとつひとつ対峙していく。死にたくないと思ったら死なないための方法もあって、でもよしえはそこで逃げなかったし死ぬことを選んだ。

絵柄可愛いしポップだしババア魔法少女という部分までは間違いなくコメディでファンタジーなのに、そこに年齢によって生まれる寿命や余命というものをお出ししてきたためにリアルでシリアスになる漫画だった。かけあわせ方がうまいんよ。

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