「忘れたい記憶、消します」求めてたものと違って消化不良
あらすじ
大学四年生の才宮かえでの手には「触れた人の記憶を抜く力」がある。けれど、力を制御できないかえでは、人と関わることを避け、バイトも就活も失敗ばかりだった。
ある時、かえでは駅のホームで一人のOLと出会う。パワハラで心身を疲弊させていた彼女のため、自分の能力で記憶を抜いたかえで。しかし、その様子をかつての年上の幼馴染、神代蒼に見られていた。
六年ぶりに再会した蒼にはかえでの記憶がない。それはかえでが抜いてしまったから。けれど彼女の能力と現状を知った蒼は、人の記憶を抜く仕事を提案して……?
うーん、読後感がすごい微妙だったんだけれども、これはわたしが予想した物語のオチとは違うところに話が行ったからだと思う。要するにnot for meだった。
小説って読むときに『失恋したばかりの主人公がこのキャラと出会うことで徐々に恋をしていく恋愛ものになるんだろう』『将来何をしたいかわからない主人公がこのキャラと出会うことで自分が何をしたいか見つけるのだろう』みたいなざっくりとした想像をして読むことが多いのだけれども、この本は途中までその流れかと思いきや終盤一気に急カーブしてよくわかんないところにすっ飛んでいった。
あらすじ通り、生身で手で触れた相手がそのとき強く思っていた記憶を抜き取ってしまう主人公が、過去に素手で触れてしまって記憶を抜いてしまった幼馴染と再会し、その幼馴染に言われて他人の記憶を抜く仕事を始める物語。
就活失敗続きの主人公が強引な幼馴染(相手は自分を覚えていない)に言われて忌み嫌う自分の能力を使う仕事を始める、という冒頭から想像したのは『忌み嫌う能力だけれども誰かのためになるとわかり、それを今後も生業にするor誰かのためになる仕事をやろうと就活でその方面を目指す』。
実際、中盤までは、記憶を抜くことでほっと喜んでくれた人に嬉しくなったり、ただ記憶を抜けば解決というわけじゃなくて根源的理由を探るのが必要だったりといった経験を経て、自分の能力も悪くないかもしれないと思い、誰かのためになりたいと思っていく。
からの、終盤突然、抜き取った記憶を保管するための場所が存在し、そこに行ってしまった少女の救出作業に何もろくに説明されないままに駆り出されてしまうという展開が始まって、どうしてそうなった?となってしまった。
この記憶を保管する場所の存在もかなり突発的に出てきたのでいきなりどうしたとなってしまった。せめてお祖母さんから話を聞いているだとかだったら良かったんだけど。少女の救出がうまく行ったのは良かったんだけれども、物語の大オチがそこに来ていて、作中で結構長々と出てきた就活が大オチに来るかと思っていたので拍子抜け感があった。
ついでに主人公が記憶を抜くところを見せろと言っていた幼馴染がほとんどその姿を見ていないのもちょっと???となった。
それはともかくとしてピアノ少年の話はすごく良かった。互いを認め合うライバル関係って良いなと感じた。あの話は単純に記憶を抜くだけでは収まらないところも含めてすごく好き。