「日和ちゃんのお願いは絶対3 (電撃文庫)岬 鷺宮」こんなのってないよぉ!!!

★★★★☆,電撃文庫セカイ系,両片思い,付き合ってる,学園,幼馴染,恋愛,現代

日和ちゃんのお願いは絶対3 (電撃文庫)岬 鷺宮

日和ちゃんのお願いは絶対3 (電撃文庫)岬 鷺宮

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あらすじ

「わたし、〈天命評議会〉……辞める」
 誰にも逆らえない「お願い」の力で世界を変えてきた日和。せいいっぱい世界を良くしてきた、はずだった。でも――
〈天命評議会〉の活動のなか、日に日に心を擦り減らす日和を見かねた深春は、彼女を〈天命評議会〉から抜けさせる。
 しかしそれは、世界の情勢を狂わせ、二人の関係にも大きな亀裂をもたらしていく。少しずつ、しかし確実に壊れていく日常、見慣れた風景。そして――深春は見なくて済んでいた崩壊を、ついにその目にする。
「好きと言ってもらえて、大切にしてもらえて、とてもうれしかった――。元気でね、深春くん」
 これは壊れたままのセカイで、それでも普通の彼氏彼女になりたかった二人の、もしかして、最後の恋物語。

シリーズ: 日和ちゃんのお願いは絶対

いやいやいやいやエグいんだけど……。読み終わってしばらくこんなのってないよぉ! って喚いちゃった。
「お願い」でなんでも叶えてしまう少女が世界を少しでも良くするために戦い、その彼氏である深春が彼女の日常として存在するセカイ系ラノベ第3巻。

崩壊していく日常

新型ウイルスが広まっていく世界で、日和はウイルスが人工的に強毒化されたものが広められた街をロックダウンし、ウイルスを外に出さず街の人を見殺しにする『お願い』を使う。人を殺してしまったという事実に精神的ダメージを受ける彼女を助けるために、深春は評議会をやめようと提案する。評議会を抜けた日和は今まで出来なかった遊びを深春とやり始めるが――というこの巻。

1巻を読んだときには強毒化していくウイルスというのがコロナなのかなと考えていたけれども、コロナに似たけれども違うなにかだった。けれどもコロナと似てるなと思うそれを利用した描写がマジ秀逸
強毒化したウイルスが広められてしまった街、そのウイルスをこれ以上広めないために街ひとつロックダウンして押し留めるという無理矢理な方策。
このあたり、2021年ぐらいに蔓延っていたあの薄暗くて未来がどうなるかわからない感覚を思い出してぞっとした。こういう一部創作ながらも日常のすぐ真横みたいな展開めっちゃ怖いんだよ。都市伝説みたいなのが苦手なのもこれかも。ファンタジーとして楽しむには近すぎる。
コロナ禍前だったらファンタジーとして読めていたこういった描写も、今となってはあり得たかもしれないものとして想像できてしまう。怖い。

更に日和ちゃんのお願いは絶対の世界では、ネットが繋がらないため、LINEで人づてで伝わるためにあやふやな情報。人々に広まる情報は遅く不正確で、陰謀論が混じり込む。電力供給などのインフラも徐々に壊れていく。
コロナ禍の状態からもし世界各地で紛争が起きていたら、コロナで人手不足が悪化したらという世界が描かれていて、現実と地続きの恐怖があった。

実際コロナで陰謀論一気に増えたしな。あれはもともとYouTubeなどに結構いた陰謀論がステイホームで暇になった人々に届きやすくなった+コロナで2021年頃に広まっていた不安感にうまく当てはまってしまって爆発的に広まったっていうのもありそう。そういう地続きの恐怖描写がとにかく上手いし、怖い。日常が徐々に壊れていく。

いやーなんていうんだろう……わたしあんまりSF系統詳しくないからこういうの読むとSFっぽいと認識してしまうんだけれどもSFで良いのかな……わからんけど……。日和ちゃんのお願いというどでかいファンタジー要素があるのにどこかSFっぽさを感じられるのはなんでなんだろう。
SFだSFだ言ってるけどこれカテゴリ的にはセカイ系か。2000年代ぐらいにめちゃくちゃ流行ったけれども最近は全然見なくなったセカイ系か、お前は……。ここに元気に生き残っていたんだな……というかコロナ禍とセカイ系が合体したの見る日が来るとは思わんかったよ……。

日和の日常としての深春

最終兵器彼女でもそうだったけれども、日和の『お願い』も徐々に能力自体のレベルが上っていき、この巻では直接語りかけるのではなく願うだけで半径数km分の人々に伝わるようになってしまう。
そんなもはや最終兵器レベルの能力を持つ非日常的な少女を、兵器だなんだとして見ることなく一人の18歳の少女として扱っていて、自分の彼女と認識している男である深春、どこまでも彼女の日常として存在していた。良かった。この物語って日和を一人の少女として扱う人は多いのだけれども、そのなかでも深春は立ち位置も日常側だからこそ、深春の隣だと日和は本当に一人の少女でいられたんじゃないのかな。

どこまでも非日常な状況に突入してしまった世界で、友達とゲーム大会したり、学校が休校になってしまったからと今しか出来ないことをやろうとしたり、高校生カップルらしくクリスマスを楽しもうとしたり、二人のカップルとしての日常がどこまでも平和だからこそ、世界の非日常さが際立つ。

前に行った海に行きたい。かわいい服を着ているところを見てほしい。プラネタリウムに行きたい。
日和が出してくるやりたいことが街一つロックダウンできる能力を持つ少女とは思えないぐらい、どれもこれもどこまでも日常的なんだよなぁ……。
1巻から「お姉ちゃんにお菓子を買ってほしい」「晩御飯をお肉にしてほしい」といった可愛らしいお願いを使っていた日和の何も変わってない部分だ。こういうのが出てくるたびに切なくなる。

そして深春も日和のことがちゃんと好きだからこそそれに応えようと頑張るのが、本当に高校生カップルという雰囲気で良いし、同時に痛々しさすら感じてしまう。
食べ物もあまり入ってこなくなった街で、それでもクリスマスに彼女に美味しいもの食べてほしくて生クリームのっけホットケーキ作るの、あまりに日常的すぎる愛じゃん……。青春すぎる。こういう青春のシーンの積み重ねがあるほうがしんどいのはそれはそう。

仕方ないとはいえ……さぁ……!!

ラストさぁ!! 心がないのかな!! あるからこそ出来るんだな!! 心めっちゃある!! ひどい!! 人でなし!!

深春がプラネタリウム作りをここまで頑張らなければ、実際に見たプラネタリウムを連想するほどに気合が入っていなければ、せめて回らなければ日和は自分が助けられなかった少女をこのタイミングで思い出したりしなかった。そしたらこんな最悪なピタゴラスイッチはキマらなかった。
日常の象徴である深春との連絡をすべてブロックして、自分を日常と深春から一切切り離してしまって非日常の世界へ飛び立ってしまったりはしなかったんだよ……。

とは思ったんだけど、日和が非日常へ戻るの自体は時間の問題だったよなぁ。
刑部さんが亡くなったとき、日和はずっと「自分ならどうにか出来た」と思い続けてた。深春にとっては「自分は何も出来なかった」「仕方のなかったこと」だった刑部さんの死だし、日和の思考は普通の人だったら自己満とか思い上がりとか言われそうだけれど、実際日和はなにか出来ちゃうだけの力があった。評議会に働きかければ、最善とは行かなくとも次善の策は取れた。
そして評議会をやめていたことで、日和は自分が責任から逃げたから見殺しにしてしまったという後悔を持つことになってしまった。
真面目で心優しくて責任感ある日和がそんなん耐えられるわけないじゃん。この崩壊しかけた世界では刑部さんが死ななくとも他の知り合いがなるというのも時間の問題かもしれなくて、日和が評議会にいても駄目かもしれなくて、でもこの状況だからこそ日和の罪悪感は最大になっちゃった。

例えばこないだ読んだ旺華国後宮の薬師も、目の前で人が死んでしまったために自分が努力して似たような人を作らないために頑張ろうとする話だった。だけど、あれはまだ死に方に救いがあった。主人公が頑張ったところでどうにもならなかった、という主人公側に対する救いが。
日和ちゃんのお願いは~の場合は、日和がどうにか出来てしまう可能性があったためにマジで全然救いがねえ。日和の罪悪感と後悔ばかりが増えるやつだよ。ひでえ。地獄か?

この巻って、読み終わってから考えると、徹底して日和がこれから評議会で頑張っていくための覚悟を決めるための巻だった。だから最後こうなるのは決まってたのかもしれないけどさぁ……こんなのってないよ……。

大人として責任を全うしようとする大人たち

だからといってこの作中には、こんな未成年の子供に全部の責任おっかぶせるなんて! 大人ってひどい! って責めることが出来る大人もいない。だからこそとにかく読後感がやるせない。

作中に出てくる大人たちは、みんな自分たちに出来る範囲で頑張ってくれているのがわかる。
日和の右腕として動いていた老執事っぽい雰囲気の安堂さんは、自分たちが日和に責任を負わせているのを理解していたし、彼女がこちらがわに戻ってこないことを願っていて深春にも会いに来た。
志保さんは志保さんで日和がいなくなってからトップの役目をやってくれていたし、なによりロックダウンのときに彼女に無邪気な様子で無茶なお願いをする大人の役を買って出てくれた。そういう人がいることで、日和が背負いこむ責任をいくらか彼女に押し付けることが出来る。実際は出来ないんだろうけれども。

い、嫌だ……嫌すぎる……良い人しかいない……敵といえる敵がいない……お前のせいで!!って言える相手がいない……。今流行りのザマァ対象もいない……!!
重たすぎる責任を子供に押し付けるどころか、責任を押し付けてしまって申し訳ないと行動や言動で示してくるまともな大人しかいない! なんなら責任から逃げたい子供をそのまま逃がしてやろうとしてくれる大人しかいない!! まともな人間しかいねえのか!?

そんなまともな人間しかいなくて人間関係は良好なのに、世界がぶっ壊れているからどんどん地獄に向かっていく。
それでも子供たちを守るために大人が責任を全うしようとして頑張ってくれている姿にちょっと泣きそうになった。

評議会の人だけじゃなくて、深春らの担任の先生にぐっと来たし、街の大人たちにもぐっと来た。
文科省が死んだので学校は休校になってしまった。でも再開させてほしい、と街の大人たちから学校側に連絡が来る。教師の給与は少なくなるけれども自分たちが払うから、と。こういう状況だからこそ教育は必要だから、と。
限界的な状況で、三角関数だの微分積分だのは将来や今必要かわからない。それでも今こういうときこそ教育を受けるべきだというの、こう……大人だからわかる。わかってしまう。大人の責任として子供に教育を受けさせたいし、そして受けさせるために動かなければならないっていうの、わかるよ。
そして深春らが学校自体を居場所として拠り所にしているシーンが多数あったからこそ、学校再開してくれて良かったって泣きそうになっちゃった。

大人が全うであればあるほどに、どうして世界はこうなっちゃうんだろう、日和がしんどい状態になっちゃうんだろうってやるせなくなっていく。いやマジ本当に最悪すぎて最高。

それにしても、1巻からそうなんだけど、見開きで『日和ちゃんのお願いは絶対』とタイトルと日和のイラストが入るの、タイトルコールって感じでぶっ刺さる。2時間映画になってくれ~~~実写でもアニメでもいい。ギリギリ感が実写結構合うかもしれん。

日和ちゃんのお願いは絶対3 (電撃文庫)岬 鷺宮

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