
あらすじ
忙しい毎日でも、ごはんを食べるときには君がいる。ただ、それだけで幸せ。
弊社の営業課には美人と評判のエースがいる。名前は秋津ひより、俺の同期である。「入社時期が同じ」というだけでなく、なんと高校時代の同級生でもある。人気者の彼女と学生時代からの知り合いだなんて、周りにバレると面倒だ。なるべく彼女とは関わらないように過ごしているが……。
『昼一緒に食べられそうだけど、どう?』
なぜかランチを一緒に食べたり、帰り際に飲みにいったり、はたまた自宅で夕飯を食べるような仲になっていた。これは社会の荒波に飲まれた残業モンスター達が美味しいご飯を食べるだけの話。
そして、同期社員がほのかに宿した恋心をゆっくりと育む話。
うーん、大人のお仕事ラブコメとしてはなかなか良かったんだけど、主人公の恋愛描写にやや引いてしまった……。ヒロインは好みだが主人公は途中から好みじゃないラブコメ、最後まで読む気は起きるけれども絶妙にもやもやしながら読み続けることとなる。うーん……。
くっつけー! お前らはよくっつけーーーー! な社会人ラブコメ
前半パートはかなり好きだった。主人公の鹿見とヒロインの秋津が社会人として忙しいなかでも、一緒にご飯を食べる時間を大切にする関係性が本当に良かった。
事務と企画の合わさった部署というあまり目立たない部署に所属し、営業の取ってきた仕事のバック部分を全面的にどうにかしているために、営業が頑張れば頑張るほど忙しい部署。立場としては中堅で、後輩の世話をしつつ先輩たちのフォローもする。そのため場合によっては21時ぐらいまでの残業もざらで、なんなら深夜日付を超えるまでのだってありうる鹿見。
そんな鹿見と、タイトルにもなっているとおり美人であり、なおかつ営業としての能力も高い秋津。
そんな秋津に家に乗り込まれてはなんだかんだいいつつ一緒に飯を食う関係性がすごく読んでて可愛かった。
この付き合ってないけど付き合ってるような微妙な関係性がこの作品の一番の魅力なんだよね。ヒロインが主人公にぐいぐい迫ってきて、主人公は「めんどくさい」と口では言いつつも内心は喜んでいて、そしてそれをヒロインも分かってる。互いに両想いだとわかってるのに、特殊な関係を維持してるのが良かった。
「ひ~ど~い~! 女の子が寝てるのに!」
「うるせぇここは俺ん家だ! 自分の家に帰って好きなだけ寝てくれ」
なおも秋津は起き上がらずに布団の上でもぞもぞしている。
「なんだかんだでここの方が落ち着くもん~どう? 一緒に住む? もう少し大きい部屋借りて」
「なんでお前と住むんだよ」
「経費節約?」
このぐらいの距離感、好きすぎる。
塩で別に全然好きじゃないのかなと思わせて、
ほっぺたをつんつんしていると次第に目が開く。
「今日泊まってく……」
どうしてこいつは警戒心がないんだろうか。それを許す俺も俺だが。
「わかったわかった。明日も仕事だろ? ベッドで寝ろよ」
「うん、ありがと」
眠気で少し幼くなったこいつはちょっとかわいい。普段のビシッとスーツで決めた姿を見ているがゆえ、そのギャップは大きい。
ってしっかり地の文では愛情満ちてて可愛いんだよこういうの大好き!
二人が一緒に旅行に行ったり、祭りに行ったり、相手の家に泊まったりするシーンは、普通な恋人同士のデートそのものなのに、付き合ってないのに付き合ってるみたいなことをする関係という絶妙なポジションが良かった。こういうの好きなんすよ。ちょい塩の男(ヒロインへの愛情はしっかりあってヒロイン側にも伝わっている)と、デレと愛情100%の女(相手が自分を好きなことがちゃーんと全力でわかっている)。いや、本当に冗談抜きでこういうのばっかり好きだな。
ツンデレでも、ツン側の愛情が相手へ伝わってるならそれでいい。それがいい。伝わっているならばそれはただの言葉遊びでじゃれ合いで愛情ですよ。
でも後輩が出てきてからウーンが募る
でも、ストーリー後半で徐々にモヤモヤしてきてしまった。後輩の女の子・春海さんになんとなく好意を向けられているのを薄々わかりつつ、その好意を否定したり距離をとったりせずにそれなりに世話を焼いてる姿にどうにもウーン……となっちゃった。
確かに立場上訊かれてもいないのに「付きあっているに近い相手がいます」と告げるわけにもいかないし、距離を取るわけにも行かないのはわかる。でも、お祭りの日の「隣にいるのは彼女じゃなく腐れ縁」っていうのはもうちょいなんかあるだろと思うんだよな。
もしこれが鹿見が秋津の感情に気付いておらず、もしくは鹿見側から秋津への恋愛感情がゼロだったらまた少し話が違ってくるのよ。それなら別に春海に気を持たせたところで浮気でもなんでもないし。
でも鹿見と秋津の関係は違うじゃん。
「ひより」
思ったより低い声が口から出たことに自分で驚く。
「うん」
大丈夫だから悲しそうな顔しないでくれ。まだ自分に自信がないだけ。入社したばかりの時の縁がたまたま繋がって、それも俺が彼女を助ける形で。
弱い俺は恩返しと行為が混ざっていないか疑心暗鬼になっているのだ……本当はそうじゃないとわかっているのに。
いつか、いつか自分のことを好きだと言ってくれる彼女の好意を、全部まるっと受け入れられるようになったらそのときは。
「わかってるし俺もそのつもりだからさ、もうちょっとだけ、あともうちょっとだけ待ってくれないか。ずるいのはわかって……」
遮るように手が伸びて髪に触れ、優しい手つきでくしゃっとする。
めっちゃ互いにわかってて、なおかつ秋津側が自信がないって理由で一時停止しているだけなんだよなあ……。この状態で春海から好意を向けられているのを勘付きつつ牽制もなにもなく放置しているの、春海がキープ的にも思えてウーンとなってしまった。
これ、秋津が営業トップクラスである加古と同じことをしたら鹿見はどう思うんだろうな。加古が秋津に好意を持っているのを秋津側が薄々勘付きつつも一緒に食事に行ってたら。送ってほしいと頼んで、一緒に家のそばまで来てもらってたら。
付き合ってない、自分の頼みで恋愛関係になるのも一旦待ってもらっている状態で、相手が自分以外の異性(好意を持っているのがわかっている)と親しくしているところを見て、秋津は一体どうするんだろうなあ……。
ストーリー前半で、彼らの「両想いだけど勝手に付き合っていない関係」が素敵だっただけに、後半でのこの展開にはどうよと感じてしまった。
社会人の日常と食事を楽しむ物語としての魅力
そうは言っても、恋愛要素以外ではこの作品のコンセプト自体はかなり好き。忙しい社会人同士が、どんなに大変でもどうにかご飯を食べてるのは可愛い。ご飯の美味しさや、そこでの会話の時間の大切さが行間から伝わってくる。
出てくる料理もどれも美味しそうで、読んでいるだけでお腹がすく。美味しそう。調理シーンが無駄に長いわけじゃない、でも美味しそうな絶妙な描写って良いよなあ。好き。
また、前述したけれども鹿見の仕事に対する姿勢も好ましかった。営業っていう華やかな部署にいる秋津とは違い、地味な企画と更に地味な事務二つの部署を兼任する努力家としての姿が、リアルな社会人物語として魅力的だった。花形ではないけれど、面倒くさい仕事も頑張る姿勢に共感できる部分があった。
