0.2ルクスの魔法の下で (GA文庫) 嶋 志摩
あらすじ
藤倉リザはこの世界でたった一人の“魔法使い”
僕は彼女を――不幸にする。
「どうやってその字を読んだの? この世界の文字じゃないのに」
ある日高校生の東圭輔は、校内で有名な不良娘、藤倉リザの前でうっかり異世界の文字を読んでしまう。
リザは誰もが美少女と認めるが、跳ねっ返りで友達がいない孤高の存在。
そして自称“あちら側の世界”の魔法使い……の孫娘。
“あちら側の世界”に憧れる彼女は、祖母の遺産を紐解き世界を渡る手伝いをしろと付きまとうが――。
「幽霊少女がユニコーンの角を盗んだに違いないわ。あなたも手伝いなさい!」
嘘吐き少年と不良少女が織りなす、学園ミステリックファンタジー。
GA文庫大賞≪奨励賞≫受賞作。
物語がずれていくボーイ・ミーツ・ガール
ファンタジー、現代、ボーイミーツガール。
どんな文字でも読める少年が、異世界へと行きたい魔法使いの孫に出会い、彼女の持つ異世界への扉を開くための紙を読み解いていく話。
これは面白かった。
異世界への扉を開くために少しずつ二人で協力し、距離を縮めていく主人公と魔法使いの孫。出会いは酷かったし下着を見せることをご褒美としようとする魔法使いの孫に少々辟易しつつ、彼女の行おうとする「異世界への扉を開く」という行為に対し、いつしか彼女よりも熱中していく主人公。途中、必要なアイテムが密室から盗まれていたり、それを取り替えすための波乱が起きたりしながらも、魔法使いの孫と主人公は少しずつ距離を縮めていく。ツンデレというには少々奇行に寄っている気がする魔法使いの孫の行動も、少しずつデレ側によっていく。
それがすべてひっくり返されるラストがなんかもー面白すぎ。そしてほとんど主人公が語る部分・作中に挟まれる手紙・ラストという極小数の出番しかないのに早奈のインパクトが強すぎ。
作中では繰り返し《世界の意思》があると出てくる。魔法使いの孫が読めない文字で困っている最中に都合よく文字が読める主人公と出会うのが世界の意思ならば、魔法使いの孫が都合よくマンドレイクの種を手に入れていたのも世界の意思。ご都合主義じゃないかと思われる部分は全部「それが《世界の意思だから》」で済まされる。
作中で主人公が「世界の意思って都合良すぎじゃないの」と言っていたけれど、そこすら伏線にされるとは思わなかった。
魔法使いの孫が異世界への扉を開くのは確かに自分がそちらの世界に行きたいがためだったけれど、世界からしたら扉を開く事によって異世界へと飛んだ勇者をこちらの世界に戻すため。そして主人公はそれに気づいていながら、魔法使いの孫を悲しませることになるとはわかっていながら、勇者をこちらの世界に戻すために魔法使いの孫をうまいこと利用する。
全体的に淡々と静かな、優しい物語にも見せて置きながら、ラストでおもいっきり魔法使いの孫の希望を打ち砕くエンドなのがほんとーに驚いたしすごく好みだった。勇者からの手紙でだいたいラストが彼女が戻ってくるためだろうとは察していたものの、けれども魔法使いの孫も異世界へと飛べるのかと思っていた。
魔法使いの孫であるリザが金髪碧眼なのも、きっと世界の意思なんだろうな。彼女が日本人の容姿から外れるような容姿を持つことで自分はこの世界から弾かれているという意思を強く持たせ、よって世界と世界をつなぐ扉を開けさせようと思わせる。それすらも世界の意思なんだろう。
リザはなんというか、非常に可哀想な立場ではあったなと……。
主人公のずる賢さというか黒さというか知恵の回るあたりというか。そのあたりはそこまで出てこず、会長の語るエピソードとして言われるぐらいで終わってしまったのが残念。実際に行動として見せられたらくどくなっちゃったからかもだからコレで良いかもしれないけれど、もう1エピソード見たかったかもしれない。
その会長は……。まさか幽霊少女の正体が貴様とは誰も思わないよっていうか、謎の美しき少女! という雰囲気で出しておいてまさかの女装男かよ! なんか強そうなライバル少女キャラがという雰囲気で出てきたのに、突如手に入った魔法のアイテムでこれで女装しまくりんぐ☆とテンションあげただけの男子高校生って、なんというか、すごく……すごく肩透かしすぎて……爆笑。
竹岡美穂さん絵ってたいていふわっとやわらかくて優しそう、でもどこか切ないような雰囲気をっていうときに使われやすいのかな。絵から受ける印象は人それぞれだからともかくとして、そういった話に使われていることが多い気がする。それでラストのどんでん返しを気づかれないようにしてるのかなって思った。
ところでこの感想書くときに、絶対にリザをヒロインとは書かないことにすごく注意した。読んでいて、リザは女主人公ではあったがヒロインというのは何か違うのではないかと思っていた。しかし早奈も別にヒロインではないしな。
続きは作れないこともないけれども個人的にはこの1冊で綺麗に終わったと思うので、これでおしまいでいい。これ以上世界の意思という名のご都合主義が繰り返されるのもなあと思う。