侵蝕 壊される家族の記録 (角川ホラー文庫) 櫛木 理宇
あらすじ
ねえ。
このうちって、とてもいいおうちよね。
――わたしの、理想のおうちだわ。
皆川美海は平凡な高校生だった。あの女が、現れるまでは……。
幼い弟の事故死以来、沈んだ空気に満ちていた皆川家の玄関に、
弟と同じ名前の少年が訪れた。
行き場のない彼を、美海の母は家に入れてしまう。
後日、白ずくめの衣裳に厚塗りの化粧をした異様な女が現れる。
彼女は少年の母だと言い、皆川家に“寄生”し始め……。
洗脳され壊れてゆく家族の姿におののく美海。
恐怖の果てに彼女を待つ驚きの結末とは……。
恐ろしくて、やがて切ない、
大人気シリーズ『ホーンテッド・キャンパス』著者による傑作ミステリ!
※本書は二〇一四年八月に小社より刊行された単行本『寄居虫女』を加筆・修正の上、改題し文庫化したものが底本です。
どんな人におすすめ?
- 人間ってこえーって言いたい人
- 実在の事件を小説風にしたものを読みたい人
- ラストに救いがあると思って読みたい人
侵食されていく『我が家』
かろうじて形を整えていた家族は、末っ子長男が事故でなくなってから完全に崩壊した。
長女は淡々と学校へ通い、次女は家のなかで透明人間として扱われる。三女はうまく取り繕い、母は壊れ、父は家に帰ってこない。
そんな家庭に現れたのは、死んだ末っ子長男と同じ名前で同じ年頃の少年だった。虐待されているらしい少年を保護した家族。そんな彼女たちの家に、徐々にとある『女』が潜り込む――というお話。
徐々にマインドコントロールを行っていき家庭を壊し、その家に居座るヤドカリのような女。彼女が行う手法が読んでいてぞっとする。
相手を受け入れる言葉を囁き、睡眠時間を奪い状況把握能力をなくし、どちらが上でどちらが下か認識させ、互いの悪口を言わせた声や書きつけたメモを残して家族同士を憎ませる。互いに憎み合った彼女たちの上に立ち、彼女たちを隷属させる。
軒下貸して母屋を奪われるではないけれど、まさにそんな状態。
優しい言葉を吐いて徐々に家庭に潜り込み自分の住処としていく、そんなヤドカリのような彼女たちが読んでいて恐ろしかった。
一人だけ家のなかで彼女たちに依存していなかった次女が、抵抗しようとすればするほど自由を奪われていくさまが読んでいて恐ろしい。完全に人間を支配するやり方を理解しているなー。ぞっとする。
人間って睡眠時間を奪われるだけで思考能力がすごい勢いで落ちていく。それがじわじわと描かれていて恐ろしい。
ホラー全く読み慣れないので読んでてほんとぞっとしたし、次女が保健室の先生に助けを求めたあたりがまじでヒエっとなった。こええよ……。自分の将来や未来に対して明るい展望があるときに読むべき本だった。
とはいえ、マインドコントロールして壊していくなら、もともと壊れかけていた家庭よりも健全な状態の家庭のほうが物語としては面白かったんじゃないのかな。
でも『彼女』たちが求めていたのは自分のすみかを探すことだし、そう考えると最初から付け入りやすい場所に入り込んだというのも納得か。
近い時代の『事件』を『小説』としたものを、どう読むべきか
あらすじから分かる通り、これは実在の事件(北九州監禁殺人事件?最初は尼崎事件かと思った)をフィクションの形にして描いたもの。そのため当然ながら登場人物の立場も違うし関係性も若干ながらずらしている。なんなら物語としてのオチは全く違う。ここは読めばわかる。
とはいえ、北九州監禁殺人事件はまだ事件が発覚して年数が経っていない。まだたかだか20年程度。たったそれだけしか経過していない、実在の事件を、どう物語として読めばいいのかわからなかった。面白がっていいのか、ぞっとしていいのか、恐れて良いのか、エンタメとして消化して良いのか。
このあたりの処理は私が北九州監禁殺人事件や尼崎事件自体について詳しかったり、事件に関わっている人間を理解していたら良かったんだろうな。そうじゃなく中途半端に知っていて中途半端に知らないからこそ、どういう距離感で読んでいいのかわからなかった。
実在の事件で、なおかつまだ生きている人がいるものは、自分の中で処理にこまる。これがもう100年ほど経過していて関係者もみな亡くなっているならばもう少しエンタメとして読めるんだけれども(歴史小説なんてその最たるものだ)、これだけ近いとどのように読めばいいのかわからなかった。
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