玉依姫 八咫烏シリーズ 5 阿部 智里
あらすじ
大ヒットシリーズ第5巻が文庫化!
八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかに
高校生の志帆は、かつて祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪れる。そこで志帆を待ち受けていたのは、恐ろしい儀式だった。人が立ち入ることを禁じられた山の領域で絶体絶命の少女の前に現れた青年は、味方か敵か、人か烏か? ついに八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかになる。
- 疑似親子萌えな人
舞台はファンタジーから現代(1995年)へ
このブログ、異世界をファンタジー、こちらの世界をざっくりと現代、古めのものは歴史ものと表現しているので、25年前が舞台の場合現代と表記して良いのかどうなのかちょっと迷うな。
しかもファンタジーのシリーズの1巻だけの場合特に。
物語の舞台は1995年、人間の世界。
女子高生の志帆は、祖母の故郷である村を訪れる。
祖母がなぜ村を出たのかしらないままに訪れた志帆が巻き込まれたのは、人身御供を必要とする奇祭。
人身御供とされた志帆は、連れて行かれた山の中で、とあるバケモノと顔を合わさせられる。
バケモノの母となれ、ならねば殺されると言われ、親になることを了承した志帆。
しかしあまりに気味の悪いバケモノの母になどなれるわけがない。
果たして志帆の運命やいかに――というお話。
舞台がファンタジーから突然人間の世界になって驚いたものの、読んで見ればなるほどそういうことか。
今までの巻で、人間世界の明かりが見えるシーンがあった。
そのため人間世界と八咫烏たちの世界はどこかでつながっているだろうとは思っていたものの、まさかこの人間の少女がメインとなる巻が来るとは思わなかった。
とはいえ、始まってすぐに志帆に若宮が話しかけたシーンで、あれ? 1巻ぐらい抜かしたっけ? と思うぐらいびっくりしたんだけれども。
少女と人外の疑似親子
あーーーーっ擬似親子!!! 擬似親子!!! 擬似親子と疑似家族に弱いんだよ!!!!
一度バケモノのもとから逃げた志帆は、けれどもバケモノ=山神のもとへ自分の意思で戻ることとなる。
他人から呆れるほどのおせっかいと言われる彼女としては、自分のせいで八咫烏たちが犠牲になるとわかりつつ、山神をおいて出ていけなかったのだ。
山神の母になると自分の意志で決めた彼女は、まずは山神に「ごめんなさい」を言うことを教える。
ここからはじまる志帆によるお母さん生活が面白すぎた。
山神と暮らすために生活の拠点を徐々に変化させ、ご飯を作れる場所に作り変え、山神と寝る場所をこしらえる。
なんなら最終的には山神と一緒にご飯を作り始める。
強いねこの子!? そして本当に母親やる気だね!?
ある程度体が大きくなると、志帆は以前に宣言した通り、椿にも食事の支度を手伝わせるようになった。
「百歩譲って食事は取るとしても、どうして下女のマネごとなどしなければならない!」
「椿、あんた今の一言で、世の中の主婦を全員敵に回したからね」
抵抗する山神を睨むと、志帆はその手に無理矢理包丁を握らせた。
「息子の食べるものを、愛情こめて作ってあげたいと思うからこそ頑張れるのに、下女扱いなんてふざけないでよ」
「だったら志帆が作ればいいだろう! どうしてわたしまで」
(中略)
「今考えても、お母さんは、世界一のお料理上手だったと思う。私も、手伝いながら料理を教えてもらったから、娘が出来たら、同じようにしてあげたいと思っていたの」
「わたしは男だが」
「これからの男は料理のひとつも出来なきゃ駄目よ。つべこべ言わずに手伝いなさい」
本当に、完全に母親である。
完全に母親である。
料理やらせる気である。
このあたりの仲良し親子生活、読んでいて面白かった。
そして料理のできる若宮ににこにこしている志帆、なんとも言えない表情で見つめる山神の関係性に笑ってしまった。あー可愛い。
からの、志帆の祖母の登場、アレコレ、裏切られたと思う山神の流れ。
過去が紐解かれていくうちに山神の絶望も理解できたし、志帆にべったりの理由もわかってしまって切なかった。