「101メートル離れた恋 (講談社ラノベ文庫)」こまつ れい
あらすじ
男子高校生の浅田ユヅキがある日目覚めると、女の子の人形の姿になっていた!
人形の名はセブンス。
一流の魔法使いであり人形師である朝霧キョウコが作り出した、世界最高クラスのスペックをもつレンタルサービス型の美少女オートマタである……らしい。
その役割は、依頼者との会話、家事、警備、さらに性行為にまで及ぶ。
セブンスになってしまったユヅキは、さまざまな男性の性処理のためにレンタルされ、心をすり減らす日々を過ごす。
やがて一ヵ月以上が過ぎ、精神的に限界を迎えつつあったとき、セブンスは女性の依頼者である高校生の少女イチコに出会う。
そして、二人は次第に惹かれ合い……!?
第8回講談社ラノベ文庫新人賞《大賞》受賞作!
主人公の性自認は男だが、絵面と行動と会話は紛れもなく女
百合とか男女とかそういう範囲の話じゃないので、とりあえず百合も男女も読める人が読むのが一番安全なんじゃないかなあ、と思った。
主人公の性自認がかなり男なのでどうしても百合目的で読み始めた人はそこがひっかかりそう。
以下、割とがっつりめにネタバレをしてます。
もともとこの本を知ったのはこのあたりの話題の流れ。
TSで百合は百合に入るのかどうかというお話で、私としては読むまではそのあたり何も言えなくないかという日和見ポジション。ということで読んでみました。
ちなみにTS百合は百合かどうかの話をするなら、魔王さまげ~む!をもっと議題にあげてほしい!
魔王さまげ~む、かんたんに説明すると「女好きの魔王は倒しに来た勇者を片っ端から女に性転換させメイドにして自分のハーレムの一部にする。主人公は魔王を倒しに来たはずの勇者(男)だが魔王によって女にされる。そこで出会ってちょっとこの子かわいいな~と思っていたメイドも、後に実は男だとわかる」という部分がある。果たしてこれは百合? 男女? BL?
このあたり、有識者のお話をぜひとも伺ってみたい。
主人公の認識としては男女(自分は男で相手は女)、正しい性別だとBL(互いに男)、外見ならばどう見ても百合。
これももう十年前のラノベなんだね……。私が初めて買った電子書籍がこれの3巻だったよ懐かしい……。
閑話休題。懐古厨はもういい。
実際「101メートル~」を読んで見ると、内容としては「百合と男女の良いとこ取り」かつ「SF」だった。
主人公セブンスの性自認は男。男として、雇い主の娘である少女イチコが好き。一緒のベッドに寝ることになると興奮しちゃうしドキドキしちゃう。けれど、外見は女である。
そしてなおかつ、言動と行動がかなり女子ノリ。これってかなり大きいんじゃないのかな。
「うん。やっぱり大学に行かせたくないな」 「なにまた急に不吉なこと言ってんの?」 「だって、イチコは世界一かわいいのに、大学なんか行かせたらすぐ彼氏ができちゃうじゃん」 「あんたは私を美化しすぎ。よく見ろ、色ボケ人形。私の顔面レベルなんて、結構普通だぞ。化粧してこれだぞ。おまえの顔こそ超美少女だからな。鏡見て出直してこい」 「私より百倍かわいいよ。イチコー好きだあー」 「引っつくな鬱陶しい。見てろ。大学行ったらソッコー彼氏作ってやっかんな」 「大丈夫かな私。イチコの彼氏に殺意を抱かない自信がないよ」 「いよいよ歪んできたなこのストーカー人形。まあ顔がいいから許してやるわ」
このあたりのぽんぽんとした会話の流れもそうなんだけど、言動がかなり女子ノリだと思う。
これが男女の会話だとしたら、もうちょっとセブンスの台詞は引き気味というか、ここまで素直に好きだーとか言いまくれるかな。よほどのチャラ男ポジションでもなければ言えないと思う。
でも、セブンスは言える。女子だから。外見も言動もかなり女子だから、主人公はここまで素直に言える。
この気軽に好き好き大好き超愛してる結婚しようといえるノリは、私はかなりの女子ノリだと感じたし、この会話こそかなり百合っぽさがあるなーと思った。
しかし、性自認は男。
アンバランスさが出ていて、読んでいて面白いというか、普段私はどこで百合とか判断してるのかなと思わされた。
これアニメで見たらほぼ完全に百合なんだよね。主人公の地の文たる部分がほぼ聞こえてこないから。うーん、そう考えるとかなりめちゃくちゃかも。
あと個人的に面白いと思ったの、主人公セブンスがイチコに触られたくないと思う感情の源が、いにしえのBLやケータイ小説で見たような理由だったところ。
アンドロイドは性欲処理にも使われる。自分は数多のおっさんたちの性欲を受けて止めてきた。なめたり突っ込まれたりしてきた。そんな自分がイチコとキスするなんて。
いやーーーーーーーーよく読んだわ、昔すげーーーーー読んだわこの流れ……。
ちょっとむず痒くなった。だいたい相手が「そんなことないよ、キミはきれいだよ」っていってなんとかしてくれるやつだ。
そういった箇所はあるけれども、唯一自分を人間として見てくれる相手に次第に惹かれていくボーイミーツガールとしては面白かった。あっボーイって言っちゃった。
からの、SF
という、甘酸っぱかったりノリが女子高生だったりした空気を終了し、物語は急展開。
一種のロボット三原則のようなものをセブンスが破り、人間を傷つけ、射殺処分されて話は動き出す。そこからの流れはもーーーーめっちゃSFだし面白かった。
アンドロイドの自我はどこから発生した? 元の少年たる浅田ユヅキの思考はどこから生まれた? 初期化されたアンドロイドは過去の人格を取り戻すのか? 取り戻せなかったとして、同じような行動をさせればそれはセブンスなのか?
このあたりの「同一」とうい部分に関しての物語はもーめちゃくちゃ急展開で面白かったし、落ちのつけかたもうまかった。
からの、最終的に持ち出された「浅田ユヅキという人格自体が作られたもの」という落ち。いやうまいな!? 本当にうまいな!?
作られた高校生である浅田ユヅキのメンタルは男だが、それを作成した元の人格自体は女(と思われるがアンドロイドに性別はあるのか?)。百合と言われれば男の前は女なのだから百合……? いやこれどう考えたらいいの……?
本当に面白かった。
面白かったとはいえ、これを百合としてお出しすると若干戸惑う部分はある。会話は女子だが主人公の性自認は男。となるともうどうしたらいいのか……。男女に拒否感がない人が、百合っぽい会話を求めて読む、もしくは性別なんて気にしない人が読むぐらいが良いのだろうなと思った。
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