キングレオの冒険 (文春文庫 ま 41-1) 円居 挽

★★★☆☆,文春文庫ミステリー,探偵助手,現代,男同士の強感情

あらすじ

京都を舞台にスター探偵が駆ける!
ロジックとキャラクターの魅力を兼ね備えた新たな名探偵小説の誕生だ。

京都の街で相次いで起きた殺人事件。
なぜかすべて、シャーロック・ホームズ譚を模していた。

解決に乗り出したのは、日本探偵公社の若きスター・天親獅子丸と、助手の大河。
大河は獅子丸をモデルにした『キングレオ』シリーズのスクリプトライターでもあった。

無関係に思われた事件を追っていくと、謎の天才犯罪者の存在が浮かびあがってくる。
エスカレートする犯人の挑発。
獅子丸はついに、師である老獪な名探偵と対決することに!

有栖川有栖さんも「なるほど、これは名探偵だ。その推理は、速い、鋭い、面白い」と推薦。
京大ミステリ研出身の俊英がすべてのミステリファンに贈る自信作!

解説・円堂都司昭

探偵助手のペアが強いバディもの

この物語では、キングレオこと獅子丸ら探偵は探偵事務所のようなものに属している。
現実の探偵事務所と違い、物語の探偵たちが行うようなことをする探偵事務所(この説明まどろっこしいな)。
そして彼等の事件解決の補佐をするのが助手であり、大河は助手兼キングレオの解決した事件を広報用に若干変えつつ物語として脚本化したりなどしている。

ところで、もはや扱いとしては古典であるホームズとワトソンの時代から、探偵と助手はペアとなっている。探偵の輝かしい経歴と解き明かした謎を語るのは助手の役目だ。また、探偵の最も良き理解者も助手である。
この物語は、探偵と助手の物語である。

としか言いようがないぐらいに、この話は探偵であるキングレオこと獅子丸と、助手である大河の関係性が強い。
互いに信頼しあっている二人であり、同時に仕事のバディな二人は読んでいておお……とすら思う。

このあたりが一番強かったのはパラキートのあたりか。

「ところでお前はどうしてここにいるんだ? パラキートはまだ電話をかける前だったはずだが」
「手短で完結な説明と長く迂遠な説明、どちらがいい?」
「北上さんがわかるほうで頼む」
「じゃあ、後者だな」
「どういう意味ですか!」
     (中略)
「なあ、手短な説明のほうはなんだったんだ?」
 ようやくエスカレーターで追いついた大河は、後方のイオを気にしながらそう尋ねる。イオはもうエスカレーターに載っていたが、幸いなことにお嬢様だけあってエスカレーターを歩いたりはしなかった。
「ああ、あれか。オレも新人に非論理的な推理過程を聞かせるのは少し気が引けるからな。さっきは回りくどく説明したんだが」
「やけにもったいぶるな」
「いざ口にしようとすると馬鹿馬鹿しくて憚られるんだ……」
 獅子丸はしばらく躊躇っていたが、エスカレーターが二人を六階に運ぶ頃にこう結んだ。
「まあ、いくらなんでもお前の声ぐらいは解るということだ」

このあたり好きな人がいそう。
とにかくこの話は、探偵と助手が巨大感情を互いに対して持っているのを当然とし、ついでに言えば周囲がそれを一部恋愛感情と思って色々と言ったり思ったりするタイプの部分もある話だった。男同士の強感情が好きな人は好きそうなタイプ。

ホームズのパロディとしての面白さ

これホームズの有名所の作品をさらっと読んでいる人ならきっとわかる面白さ。
なにせ短編ひとつひとつのタイトルが

赤影連盟
踊る人魚
なんたらの紐
白面の貴公子
悩虚堂の偏屈家

ときたもんだ。赤毛連盟やまだらの紐ならば有名だから知っている人も多いハズ(知らなくてももちろん面白い)。

章タイトル自体、作中人物たちが「これってホームズの○○の事件に似ていないか」と話すところから来ているので当然その事件に似ている部分がある。
ホームズの事件を知っているならば、あの事件とこの箇所が似ているからもしかしてこのトリックはこういうこと?などと想像させてくれるものの、当然ながらパロディなので同じトリックは使わない。そこが主栞。

個人的にはなんたらの紐が面白かった。そういうやり方持ってくるか!

すごい久しぶりにあやかしが出てこなくて人がちゃんと死ぬミステリーを読んだ気がする。ほんと面白かった。

とはいえ個人的には合わなかった

読んでいてうまくいえないけどずっともやもやを持ちながら読んでいたので、おそらく続きは読まないだろうと思う。

なんでだろうって考えてたんだけど、獅子丸と大河の関係性を恋愛だと思い込むキャラクターがいたからじゃないのかな。
自分でもふわっとした感覚なので説明が難しいんだけれども、バディとしての関係の二人(性別問わず)を、勝手に恋愛関係だと思いこんでなんだかんだ思ったり言ったりするキャラがあまり得意ではないのかもしれない。これがバディというより主人公と相手役(恋愛面)として出てきたキャラなら違うんだけど。もしくはどちらかが相手に対して恋愛感情を持っているならば違うんだけど。
そうじゃない友情(そしてこれから先も発展しないもの)しか抱いていない二人に対して、作中のキャラクター自体がそう思うのがなんとなく嫌なのだと思った。

ちなみにこれで物語が進んで二人が恋愛感情を持ったら全然違ってくるし、キャラクターではなく読者側が言うならなんともないので、かなり自分のわがままと感覚だと思う。
14歳程度の女キャラクターの心理描写部分でヒップという表現がなんとなく気色悪く感じたので読むのをやめた(過去に実際にあった読むのやめた理由)というのと同じぐらいに、他人に理解されづらい自分の感覚の問題だと思う。

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