「数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。」数学嫌いは魔法の説明として読め、戦記物として面白い。

★★★★☆,電撃文庫ファンタジー,戦記物,戦闘,異世界転移

あらすじ

小国ファヴェールの王女・ソアラは悩んでいた。
隣国との緊張が高まり、戦争の気配がちらつき始めた今、国力が低い自国を守るにはどうすればよいか。
父王は病に倒れ、頼みの綱の家臣たちも、前時代的な「戦いの栄誉」ばかりを重視し、国を守る具体案を誰も持たないまま。
このままファヴェールは滅ぶのか……。

しかし、そんな時、彼女の前にある人物が現れた。
《ナオキ》――後の歴史に《魔術師》の異名を残したその青年が扱う『数字』の理論と思考は、ソアラが求めた「国を救うための力」だった……! 

異能ナシ、戦闘力ナシ、頼れるのは2人の頭脳だけ……! 
理系青年と、敏腕王女が『戦争』という強敵に挑む『異世界数学戦記』、ここに登場!

数学は好きか

数学戦記モノ、というちょっと不思議なラインのお話。
数学大好き青年の主人公は、ある日突如異世界転移し、そこで出会った一国の王女(こちらも数学好き)とともに国を救うための数学をやっていく――という物語。

タイトルにもある通り、作中には数学がものっそ出てくる。すごいかず出てくる。
様々な数学の理論が山のように出まくって、図解付きで説明してくれるけれども、読んでいるほうは正直まったくもって理解できない。
主人公とヒロインは理解し合っているが、ちょっと待てこっちはただの一般人なんだ。なんか小難しい数学の理論だのシミュレーションだの言われてもわかるわけないだろう。速さは道のり割る時間まではわかっても、複素数だとかあのあたりはもう怪しいんだぞ。こちとらΣとCで精一杯だ。

――という数学が苦手な人種的には、この数学というものは魔術だと思えばいい。
読んでいるラノベで魔術の理論を丁寧に読み解くだろうか。否、読まない。少なくとも私は流し読みする。真面目になんざ読まない。わかんないし。され竜の咒式なんて最後に真面目に理解しようとしたのなんて中学生の頃だぞ。

というわけで、作中の理論に対しての理解度ほぼ0、主人公を魔術師と厭う他の貴族の皆々様型と同じぐらいの気分で読んでいたけれども、とても面白かった。

他人と理解しあうための方法

主人公は、数学を愛している。数学者である祖父に憧れ、祖父とおなじように数学を愛している。

「数学を愛してもらうということはな、私のような数学者と、同じ気持ちになってもらうということだ。それは、私と同じ景色を感じ取って、美しいと思ってもらうこと。
 ――たくさんの人に愛されようとするよりも、まず、たったひとりでいい。同じ景色、同じ世界を分かち合いたいと心から願う数式を、導き出さないとならなかったんだ」
「同じ世界を、美しいと思ってもらう……」

尊敬する祖父にそう言われたものの、さほど友達などもなく、同じく数学を愛する人を見つけられなかった主人公が、異世界で、同じく孤独に数字を愛する少女と出会う。

「わたしの、書いたものを見て、綺麗に整えられてるって、感心したって、言ってくださいましたっ」
「それのことか」
 たしかに言った。よくできてる。
「わ、わたしは……あれは……わたしなりに、必死に考えたんです。長い間、たくさんの記録を集めて、頑張って、作って……。でも」
 ぎゅう、と僕の胸を掴む少女の手が握りしめられて、震えていた。
「人に見せたら、気味悪がられて……変だって思われて……理解、してくれなくて……!」
 苦しげに息をして、彼女は僕を見た。
「だ、だから、び、びっくり、したんです。わたしの、作ったものを見て……褒めてくれる人が、いるなんて、思わなかったんです……」

最初はちょっと大げさじゃないかこの子と引いたんだけど、読んでいくうちに、この世界では数学は非常に遅れていて数学を使った理論など誰も立てないし、彼女が必死で作り上げて計算したものなど『なんの根拠もないもの』と同等に扱われるものだとわかってから意味が変わってきた。
彼女にとって、ここは自分が信じるものを信じる人に、初めて出会えたシーンなんだよね。
そりゃ泣きもするし感動もする、理解してくれたことに驚くし嬉しいしたまらないだろうな。

誰も自分を理解してくれない世界で、やっと理解してくれる人を見つけた。
そういう話であり、そういう相手に惹かれる物語だった。
そのアイテムが魔術や魔法じゃなくて数学っていう話だった。

そんな都合よく行くもんかね

ただ、読み終わってからも『そんなに都合よく行くもんかね』という思いは残る。

だって数学はどうしたって机上の空論だ。実際に物事を見て行えるわけじゃない。
机上の空論で描かれたものが、どこまで真実にたどり着けるのか。

数値は確かに嘘をつかない。
書いてあるのは事実だろう。
戦の作戦としても理解できるし、費用などの金額計算、戦力計算だって概算の数値を大きくはみ出すことはないだろう。

でも、私達はラノベを読んでる。ラノベを知っている。
突如現れた異世界から召喚された勇者によって、簡単に滅ぼされる他国を知っている。突如ものすごーく強い女剣士が現れて全てをなぎ倒す世界を読んでいる。
そういうラノベならではの部分を抜いたって、現在コロナが起きたり結核の集団感染が起きたりという状況を知っている。
数値は確かに嘘をつかないけれども、本当にうまくいくのかなあ、と思いながらも読んだ。

そういう意味では、秘密のなにかで一発逆転というよくあるテンプレートから抜けた小説だったかもしれない。


こちらも数学モノ。
よくわからない数学という魔術を使って物語を鮮やかに進めていくのが読みたい人におすすめ。

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