「帰ってきたヒトラー」映画として面白いエンタメ

★★★★☆,映画


あらすじ

ヒトラーが現代によみがえり、モノマネ芸人として大スターになるというドイツのベストセラー小説を映画化。

服装も顔もヒトラーにそっくりの男がリストラされたテレビマンによって見出され、テレビに出演させられるハメになった。
男は戸惑いながらも、カメラの前で堂々と過激な演説を繰り出し、視聴者はその演説に度肝を抜かれる。
かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸として人々に認知された男は、モノマネ芸人として人気を博していくが、男の正体は1945年から21世紀にタイムスリップしたヒトラー本人だった。

ヒトラー役を演じるのは、舞台俳優オリバー・マスッチ。

自殺したヒトラーがどういうわけか死んだ瞬間に時空移動し、自分が死んでから数十年後のドイツに現れ、ヒトラーそっくりさん芸人として認識されて次第にテレビやマスコミなどに浸透していくお話。
ちなみに私はアンネの日記すら読んだことない程度にマジで歴史を知らない。ユダヤ迫害があったのはかろうじて知っている。世界史がガチの苦手なんだよ。高校時代に「次は倍の点数取ろうね」って世界史の先生に言われた程度に苦手なんだよ。

この映画のうわーってなるところ、これが映画ってエンタメで作られている点。
作中で描かれるヒトラーは、ヒトラーっぽい発言をして(そりゃヒトラー本人だから当然とはいえ)、エンタメ的にも自分の魅せ方を知っている。
もともと人心を集めてユダヤ迫害をした政治家だけあって人に見られる際の立ち居振る舞いは得意だ。バラエティを中心に出ていき、次第に若者のYouTubeなどを中心に関心や同意を集めていく。

この描き方がすげーうまいの。私だってかろうじてヒトラーってやべえ人だと知っている。でもなんか愛嬌あって面白くて、自分をヒトラーだと言い切るちょっとおもしろおじさんだと思うとなんか面白く見えてきてしまうんだよね。
だって、ヒトラーが死んでからもう70年だ。70年も経っているのに本人がここにいるなんて思うわけがない。皆が皆、ただのそっくりさんでおもしろおじさんだと思ったとしても仕方がない。逆にこいつがヒトラー本人だと思う人間のほうがおかしいだろって言われたらそのとおりだよ。おかしいよ。
日本人だって伊藤博文のそっくりさんがここに現れて「自分は伊藤博文だ」って言ったとしても、整形して似た顔にして、似たような思想を話しているそっくりさんだと思うだろう。西郷隆盛だってそうだし坂本龍馬だってそうだ。いや年数的には違うけど、だいたいくくりとしてはそんなもんじゃん。
話している思想だって、現代に合うようにチューニングされているから、当時の文献に残っているものとそっくり同じなわけじゃない。だから気付かない。もしかしてと思っても、絶対にありえないと思ってしまう。
そうして、ヒトラー自体が次第にお茶の間に入り込み、思想が人々の中に蔓延していく。

ヒトラーの暴力性の魅せ方がうまいと思ったし、ドイツでも犬を殺すのはアウトなのかとちょっと驚いた。そこは普通にアウトなのね。
彼は犬と同じようにユダヤ人を殺したのだろうと思わされる。クレイマイヤーや祖母に対する発言がそうで、ヒトラーは「ユダヤ人でも思想は良い、体にユダヤ人の血が流れててもなんとかなる」的な発言をする。つまり、ユダヤ人自体は駄目だと言っているようなもので。結局彼のその思想は何一つとして変わっていない。犬を巻t何位殺したのを見ていたからこそ、ザヴァツキはきっと彼はユダヤ人をああいうふうに簡単に殺したのだろうと思う。

認知症のおばあちゃんっていう登場人物の出し方がうまいよね。
誰もがこの人はヒトラーによく似たそっくりさんだと思っているが、認知症の老婆のみは「こいつはヒトラー本人だ」という。当時を覚えているから、当時と記憶が混濁しているから、昔のことは覚えているから、時間の認知がおかしくなっているから。
そして老婆に言われた後のヒトラーの様子が『アドルフ・ヒトラー』だからこそ、ザヴァツキももしかしてという思考にとらわれる。

からの映画のラストシーン、白い部屋のあたりは、映画として面白れーーーー!!!となってしまった
こういうの大好き! こういう急降下の落とし方は大好き! 楽しい!! 最高!と手を叩いて笑ってしまった。こういうどんでん返し的な流れがある映画は最高に好き!!

この作品が映画になったのがすごい皮肉で面白いなと思う。

私はこの映画を面白いものとして見た。特に前述の通り映画のラストシーンに手を叩いて笑っちゃった。好きなんだよねこういうの。
でもこういうエンタメとして思想は入り込んでくる。お茶の間の笑いに混じって政治的思想は入り込み、それが当然であるかのように思わされたり、もう一度迫害の準備が行われたりする、というのをエンタメで行う。
映画を撮り終えたシーンで「もしヒトラーが現代に蘇っても大丈夫」という、あれが恐ろしい。その横にはヒトラー本人がいるのに。

この小説、日本でいうならもう50年くらいしてからオウム真理教の麻原彰晃が復活する話なんだろうなと想像したらぞっとした。普通にめっちゃこええよ。


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