「サトコのパン屋、異世界へ行く 1」実家のパン屋、数年に一回異世界転移する

★★★★☆

あらすじ

実家のパン屋ごと異世界にトリップ! 悪の魔法使いから姫君を守るため、駆け出しパン職人の少女の冒険がはじまる。

実家のパン屋ごと異世界にトリップしたサトコ、18歳。
「大きな地震のたびに先祖代々トリップしてる」と母に聞かされ、大混乱!
戸惑うサトコをよそに、15年ぶりの営業にお店は満員御礼の大賑わい。
こうなったら粛々とパンを焼きつつ、日本に戻れる日をおとなしく待とう、そうしよう。
そう思っていたある日、配達先のお城でサトコは一人の美しい姫君・コズサ姫と出会う。
18歳──だけどどう見てもその外見は十歳ほど。
“王の中の王””への輿入れをひかえたコズサ姫、魔法で子どもの姿に変えられてしまったらしい。
天下泰平のためのこの縁組、なんとしてでも実現させないわけにいかない。
相手は悪の大魔法使い、このままでは姫の身がますます危ない。
しばしの避難だ──ようやく話がまとまったとき、コズサ姫が大きく宣言した。
「一緒に来てくれぬか、サトコどの。旅先でもそなたの焼いたパンが食べたい! 」

このポストは約 4 分で読めます。

実家のパン屋+2階の住居がまるっと異世界転移。しかも十数年に一度レベルでよくあることだったという物語。突拍子もないんだけど、肝っ玉母ちゃんとしか表現しようがない母ちゃんのキャラが強くて、まあそういうこともあるのかな……? と思えてくるのがすごい。

突如自宅ごと異世界転移して慌てふためく主人公に対し、すでに2度目の母ちゃんが慣れた調子で「どこどこに挨拶してきて、どこどこに開業届け出してくる、電気ガス水道のライフラインは問題なし」とさくさく言ってくれるので安心感がすごい。なんだこれ。
主人公は慌てているけれども頼れる大人がいるっていうの、バランスとしてすごく読みやすいんだよね。仮面ライダーにおけるおやっさんポジション。仮面ライダーのおやっさんポジションはたまに敵なのにいつまでもOPでぴょんぴょんしてるけどそういう話はしていない。
母ちゃんがいるから大丈夫という安心感が本当にすごい。

異世界は異世界で、とんがり帽子の魔法使いがいるけれどもお米やお団子があり、蕎麦もあるというカオス世界。お城はエード城でそこにいるのは王様ではなく上様と、どことなく日本に似ていてちょっと違うぐらいのくすっと感。
これであざとくなくておもしろーって言えるのって、主人公がそれこそ母ちゃんと一緒に「こうなの、面白いでしょ」って会話出来るのがいいよね。地の文で読者に話しかけてくるタイプじゃなくて一緒に話せる人がいる。

「外観はヨーロッパかもしれないけどね、中身は江戸時代っぽいところがあるよ」
「だよねえ、異世界に来て七輪なんて単語聞くとは思わなかったもん」
「面白いのはあのお城だよ。当然王様がいるんだけどさ、何て呼ばれてると思うよ」
「……王様、でしょ?」
でなきゃ陛下とか閣下とか? するとビスケット生地にふたたび向き合っていた母、分別したのを丸めたり伸ばしたりしながら、ちょっと笑ってこう続けた。
「違うんだよ。あそこに住んでるのはね、”上様”なの」
上様……! 焼きそばをバットに移しながら、ぶふっ、とあたしはついに吹き出した。
「私も最初聞いたときは耳を疑ったよ。二度聞きしたからね」

こんなん負けるじゃん。おもしろ状態を、更に共有できる頼れる大人がいるのめっちゃいいじゃん。最高じゃん。
しかも母ちゃん。主人公じゃなくて母ちゃんが2度目。なので下手に主人公が慣れきったやれやれ感じゃなくてこっちは新鮮な驚きを見せてくれて、でも母ちゃんには頼れて。安心して読める異世界転移だよ。異世界転移、かあちゃんと一緒。

しかも母ちゃんは2度目っぽいけど、このパン屋自体は2度目や3度目じゃないっぽい。なんなら少なくとも爺ちゃんの代まで遡れるぐらいにパン屋自体が異世界転移慣れしている。
おかげで何十年かに一度やってくる美味しいパン屋という扱いで皆がやってくるのを楽しみにしているというおまけつき。最初に出てきたとんがり帽子の魔法使いの爺ちゃんがパン屋が現れるのを何年も何年もわくわくしながら待ってたんだろうなーってのが読んでて伝わってきて超いい。爺ちゃん絶対に空間の歪みの痕跡が察知できる魔法を常時使っててわかった瞬間に飛んできたでしょ。……と思ったけど、これよく考えたらお姫様関連の伏線か? ちゃんと見張ってましたっていうことか? でも爺ちゃん、絶対パン屋が再登場してあんぱん食べれるのずっとわくわく待ってたでしょ。

 

中盤からは、呪をかけられて外見年齢が幼くなってしまったお姫様と、彼女と護衛騎士二人とともにお忍びで王都から逃亡する話へ変化する。

忙しい異世界パン屋の日常生活から、刺客に姫様と間違われて襲われる主人公の話へ。
あらすじではまるでパンを食べたいと乞われたから行くことに決めたようにも見えるけれど、実際のところ結構違ってた。いやこれは詐欺でしょ。物語の内容との差が大きいという意味ではなく、主人公があまりに詐欺られてるでしょ。
そりゃあ考えてみれば本来の外見年齢に近い主人公なんていい囮になるよね。話が途中で終わらされちゃったけど主人公は今度こそ本気で怒っていいレベル。

とはいえ、今までなにもかも流されてきた主人公が母ちゃんに話しながら自分も旅についていきたいって思えるようになった流れは熱かったし、じゃあこれからどうしたい? と考えてしっかり意志を決めてほしいなー。
あそこの、母ちゃんに話すまでは生きたくないぐらいのつもりだったんだけど、話しているうちに次第に自分の意見がまとまってきて、ああ私は一緒に行きたいんだってなる主人公の思考というか流れというか、割と「あ~~あるある!」と思えてすごく好き。

結構面白かったから、2巻も読んでみたいな。

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