「転生者の私に挑んでくる無謀で有望な少女の話 1」天才と凡人の才能の差

★★★★★,ヒーロー文庫ファンタジー,前世,幼馴染

あらすじ

天才少女が平凡な少年に一度も勝てない秘密とは? 敵対していた二人の小学校から高校時代を描く美しく不思議な物語。

アーニャは成績はトップクラスで学校中の憧れの的であり、将来有望な少女である。しかし彼女にはどうしても敵わないライバルがいた。
幼馴染のジーク。
彼とアーニャは7歳の学習塾からの付き合いだった。

冬の寒い日に入塾してきたジークをアーニャは冷たくあしらうが、テストで自分より良い点数を取られ、悔しがって大声をあげる。
それからというもの、アーニャはジークに何度も勝負を挑むようになる。
待ち伏せをしたり、追い回したり、睨んだり、からかったり、宣戦布告したり。

そうやって彼女と彼は長い時間を一緒に過ごす様になるのだが……。

前世の記憶があり勉強が出来る分幼い頃から天才扱いされてきた主人公と、本物の天才の物語。
いやこれすごいよ。ほんとすごいよ。なんだこれ。天才に見えるが前世の記憶があるだけなので実際は全然天才じゃない主人公は、いつか本物の天才に追いつかれると、本人こそが一番良く知っている。
絶望的なまでの才能と地頭の良さを見せつけられる物語だ。それと同時に救いの物語だった。ここまで綺麗に最後まで救ってくれるのずるすぎるでしょ。優しすぎるでしょ。

主人公は既に前世で28歳で、プラスで今の人生分の人生経験がある。現在年齢28+8歳の人間が小学生の問題を問いて、100点以外を取るはずがない。
そんな主人公が入れられたのが近隣で一番レベルの高い学習塾。そこで出会ったのは今までずっと1位を取ってきた少女。彼女は自分が1位ではなくなったことに驚き、主人公よりよい点数を取ってやる!と言い放ちライバル視してくる。
でも当然彼女が主人公の点数より上の点数を取れるわけがない。なんてったって主人公は精神年齢で言えば彼女の4倍近い。小学生の問題なんて間違えるわけがない。
そして主人公も自分の今まで生きてきた人生的なプライドもあるし、恐らくは彼女がわざと負けてもらっても喜ばないだろうことをわかっているから手を抜いたりはしないまま、二人の関係は続いていく。

 しかし結局、私のこの成果は『転生』という特別な経験を経たからであって、自身の能力によるものでも努力の結果でもない。自身の能力を信じ、一生懸命頑張っている彼女を打ち破るのに罪悪感を覚えてしまうのは当然のことなのか、それとも私は結局精神的にも凡人であるということなのか。

っていう、自分が頭が良い理由がわかっているのが良いんだよね。精神的にしっかりと大人のメンタルで主人公は生きている。

けれど、いくら前世分の記憶と思考力の下駄を履いていても、いつかは追いつかれる。天才と秀才の違いですらなく、この物語って天才と凡人の差の話なんだよね。
最初にその部分が顕著だなと思ったのが中学時代のシーンで、

 こうして皆の勉強を見て回って思うのが、やはりここは進学校というだけあって皆頭がいいということだ。私の教えを簡単に吸収し、すぐに理解し活用する。そして質問も少しドキリとする高度な内容だったりする。というのも、前世の中等部の頃では到底考えなかったであろう思考を、目の前のこの子たちはしているということだった。私が大学時代にやっと気付いた物事の考え方について、この子たちはもう既に悩み始めている。
私は凡人と天才の差を垣間見ていた。そしてそれはアーニャに勉強を教えている時も感じているものであった。

こう……じわじわと、地頭の良さが違うの見せつけられるのって辛いよね。これ絶対に地頭の問題なんだろうなってわかるのが……また……。
主人公が彼らと同じ年代の頃には、その思考方法は絶対にたどり着けない。彼らは主人公よりずっと頭の良い人間だ、というのが目に見えてわかってしまっていて、年齢だけでかろうじて上回っているが絶対に覆せない差があるというのがわかるの、絶対に辛い。

主人公は自分が凡人かつ年上だからこそそれをちゃんと理解してしまっているのが更に辛い。
これを理解できないぐらい頭が弱かったり幼ければいいのに、主人公は経た年相応の思考力があり、彼らと自分は絶対に違うと理解してしまっている。つらすぎる。

 私だけが変わっていない。
私だけが前にすすめていなかった。差が埋まっていく。相対的に私は大人でなくなっていく。皆が上を見上げ、正しく成長していく。

このあたりが読んでて本当にしんどい。
魔道具コンテストのあたりではもう読みながら、頼むから主人公に優勝させてくれ、お願いだから、せめて前世の経験があることぐらい優勝させてやってくれ、もう主人公ではアーニャに勝てないからと半ば祈りながら読んでた。
そんでもって、もうここまで来るとわかっちゃうんだよね、アーニャが2位って言われた時点で。ああ、主人公は駄目だったんだな、って。
せめて前世の仕事にまつわることぐらい主人公に勝たせてやってほしかった。何か一つでいいから認められてほしかった。十で神童十五で才子二十歳すぎればただの人、作中で何度か言われていたそれを明確に主人公に突きつけないでやってほしかった、って本気で思うぐらいに主人公がしんどすぎた。

からの、それからのだよ。

「あんたに合った道は『教師』よっ! だって、なぜなら! このあたしをここまで育てたのだものっ!」

これ完全に救いじゃん。確かに主人公が勉強を教えたからここまでになったんだよ。そうだよ。アーニャ単体でここまで勉強がわかるようになったんじゃない、ほんとだ、主人公が教えたからだよ。救いじゃん……こんなの……。
アーニャはたしかにもともと天才だったけど、途中で主人公に勉強を何度も教わったし教えた。その御蔭でアーニャの学力は上がっただろう。主人公の教え方がうまいとアーニャは何度か言っていた。主人公がいたから、天才のアーニャはその頭の良さを発揮できた。主人公と読者はそれをよく知っている。
なんかもう、救いと光が強すぎて負けた。半泣きになるぐらいこのラストの展開が好き。

 

それにさ、主人公としては、自分が転生しているって話して実際の年齢だとかそういうのもばらしてアーニャに受け入れてもらったの、あまりに強すぎる救いで許しじゃん。
今まで天才だと思われていたのは本当は前回の記憶があったからであって、頭が良かったからじゃない。前世という下駄を履いていて、ある意味ズルをしていただけだ。自分を追いかけてきた子にこれを言うのってものすごく勇気が必要だったろうし、それを知ってなお「やっと幼馴染になれたみたい」って笑えるアーニャが強すぎるし救いすぎた。主人公を追いかけてきていたのがアーニャで良かった。

いつもだったらこのまま二人がくっつくと、やめろ! 年の差を考えろ! って言いがちなんだけど、ちゃんと自分の年令を知らせた上で、なおかつ人間性に惚れているだろうと思えて、しかも救いなので、なんか……よかったね……としか言えなかった。

 

これで綺麗に話終わってんなーと思ったら主人公とアーニャの娘の話が始まって、ここまで綺麗に終わったのに話まだやんの? と思ったんだけどこの話もめちゃくちゃ良かった……。
前世の自分のやったことに虚しくなっている人が、なんとなくこの子は敵じゃないと思えている相手に、自分が今生きてるのは前世のあなたのおかげって間接的にでも言われたらそりゃ泣いちゃうじゃん。救いだよこんなの。完全に救いだよ。
ここは完全に本当に救いだった。美しかったし優しかった。光だった。

えーーーーもうホントに良い話だった……。でもこれで2巻3巻あるのかよ、と思ったら3巻の評判が良いみたいなので続きも読む。えーーーん本当に良かった。

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