「美少女にTS転生したから大女優を目指す! 1」姉が可哀想

★★☆☆☆,HJ文庫TSF,お仕事,現代,逆行

あらすじ

人生やり直したら美少女に!? 

過去に演者を目指していたが、病に倒れて5年以上寝たきりで過ごしていた松田圭史。彼は気が付くと昔住んでいた懐かしいアパートの一室にいた。その姿を女児の赤ん坊・松田すみれに変えて。
思いがけないやり直しに、戸惑いつつもより良い人生を送るため日々奮闘するすみれ。そんな彼女(?)の運命は、姉が勝手に応募した『全国美少女オーディション』により大きく動き出す――!!
人生を悲観していた30代後半のおじさんが美少女に転生したら大女優に!? TSやり直し現代ファンタジー、華麗に開幕!

うーん、すごく全体的に微妙な部分が多い本だった。
読んでいてそれでいいんかい部分がちらほら見られるというか。

毒親の影響でろくに惜しまれもせずに死んだ主人公が、目が醒めたら自分がほぼ生まれた頃まで時間が戻っており、しかも性別が女になっていた――という物語。
転生というよりも、ただしくは逆行かな。記憶も精神もほぼそのまんま残したままの逆行なので、主人公の現在年齢は享年39+逆行してからの年齢となる。

主人公の夢がいきなり湧いてきた

前半は幼稚園で仲良くしていた子とのやりとりや小学校生活。当然ながらもともとが39+現在年齢のおっさん、周囲の子たちのお世話係となる。周囲から見ても大人びている子供として認識されるおっさん。

中盤で主人公は、あまり主人公をよく思っていない姉に勝手に応募されたオーディションで東京へ行くこととなる。
この部分でほぼ突然に主人公が『もともとは声優になりたかった』と出てくる。いやいきなりだな。
そして、大人たちの前で外郎売りを披露して、その演技力で周囲を圧倒し、オーディションでは不合格となるも、他の大物の目に止まってこれから演技指導をしていこうという話になる。

この『演技をやりたい』『女優になる』という夢、出てくるのはいいんだけどすげえぽっと出で湧いてきた感じがありすぎる。
例えば、『今まで女児の演技をしていたのは前世で演技の練習をしていて憧れていたのでまともにできるんです!』みたいなのが事前に出ていればここまでいきなり感がなかったのだけれども、突然湧いて出てきた理由と湧いて出てきた演技力、湧いて出てきた過去なので、いや……?いきなり何を言い出した……?と思ってしまう。事前にいくらでも描写仕込める状況だったろうと思うからなおさらに。
もしくは『今まで女児の演技をしていたからこそ演技力が磨かれていた。それが人前で演技をしたことで、自分がやりたいのはこれだとわかった』でもいいんだよね。これだったらいきなり湧いてきても理解できる。
だから、主人公がいきなり演技をやりたいからと母親にある程度訴えつつ、でもお母さんが駄目っていうならやらないムーブをしてきても、いやお前別にそんな演技やりたくないだろ?と思えてしまった。

でも小学生なんだし、この時代だったら学習発表会やお遊戯会なんてなんぼでもあったよね。なら演技力がやりたいならそのタイミングで薄々自覚するかな。過去に全く発現せず、ものすごく謎のタイミングで都合よく湧いてきた設定としか思えなかった。

それに、主人公は前世でもともと習っていて演技が出来たという設定。だったら演技を習っていたというのが薄々出るんじゃないのかな。学習発表会用とも違う、習得した演技っていうものがにじみ出ると思う。
そういうの、よっぽどの大女優だの名俳優だのじゃないと隠しきれないと思うし、主人公は前世は声優になりたかっただけのただのおっさん。実際小劇団などに所属していたわけでもない。
だったらどうしても習っていた演技というのが出てしまうし、こういうところでオーディションするぐらいの人ならわかっちゃうでしょう。
オーディションの審査員たちは、主人公が過去に演技を習っていたのも気づかない、目が節穴の人たちばかりなのかな。

姉それでいいんかい

姉ーーーー!! 姉周り雑!!!!

前世ではそこそこ良い関係だったものの、主人公が前世アラフォーおっさんの能力で礼儀正しくお手伝いをする子供だったこともあり、自分に周囲の目が向かなくなって愛されなくなったからと我儘をして周囲の目を自分に必死で向けようとした姉!! 女孫に甘い祖父母からのちやほやが自分以外の人に向いてしまったために必死でこちらに目を向けようとしたものの、子供故にやり方が分からず結果的に主人公に八つ当たりする我儘な子供になってしまった姉!!
見ててこの子が一番きつかった。主人公が逆行したせいで人生ぶち壊された人の筆頭じゃん。

少なくとも前世では最低限の関係性を築けてたはずなんだよな、姉。

母親とはまた違った意味で自分至上主義だった姉には色々と嫌な思いもさせられたが、助けられたことも多い。

こう表現される程度には、悪い関係ではなかったんだろう。

でも、姉からしたら周囲の愛情をかっさらってく敵でしかない。

 姉が一番ショックだったのは、祖父が俺を猫可愛がりすることだと思う。前世では俺のことなど路傍の石を見るかのごとく無関心だった祖父は、唯一の女孫である姉を溺愛していた。どうやら現世でもそれは変わっていなかったみたいで、俺が2歳ぐらいになるまでは祖父の中では姉が一番可愛い孫だったのだろう。
 幼女の皮を被った大人である俺にとっては、ジジ馬鹿ババ馬鹿になっている祖父母を手玉に取ることなど容易いのだ。なにせ外面・内面の可愛さレのレベルが高いのだから、ちょっとしたことでも彼らは喜んでこちらへの好感度をあげてくれる。

世界で一番お姫様だったのが視線を奪われ、しかもアラフォーおっさんの手腕で周囲の信頼も愛情も集められたら、そりゃあやさぐれるしひねくれるし、その理由である妹に八つ当たりをしてしまうし、それがずっと続いてしまってもおかしくない。
自分よりなんでもうまくやれるし、自分が遊びたいときでもちゃんと母親のお手伝いをして可愛がられる妹。そんなの劣等感も罪悪感もぐずぐずに刺してきて、一緒にいるのはめっちゃ辛いだろう。いるだけでお前はだめな子って見せつけられるようなものなんだから。
小学生を卒業しそうな頃までずっとそうなのは流石にちょっと長いなとは思うけれども、両親も姉にフォローしている様子も見えないのでさもありなんであはる。

「……わたしがいなければ、お姉ちゃんはお母さんのお手伝いも文句言わずにちゃんとする? 自分ができないことを他人のせいにしないで、反省したりできるように努力したりできるようになる?」

これはたしかに出来ないかもしれない。
でも、少なくとも前世の姉がここまで主人公に敵対していなかった以上、主人公が大人の知識と態度チートを使って周囲の愛情を独り占めしなければ、もうちょっとまともな人間になっていたんだよなあと思わずにいられなかった。

ラストのほうで、姉に危害を加えられないようにと主人公は両親と寝て、姉は一人で寝かされる。
例えばこのシーンで父親が姉と、母親が主人公と(逆でもいい)で寝るなりしていればまた違ったんじゃないのかな。
主人公は演技のために東京に行く。けれども姉はこんな両親の元に居続ける。

物語冒頭で、死ぬ前の主人公は、両親から愛されていなかったんだろうなという描写をされている。

自分でもどうしようもできずに母親に助けを求めたら、返ってきた言葉は『仕事はどうするんだ』という冷たい一言。父親からも同じような言葉が返ってきた。

これ以外も、母親は子供が幼いうちは子供の自我を認めず執着する嫌な毒親として描かれている部分が多い。
可愛い可愛い執着相手である主人公がいなくなり姉しか残されていない家のなかってどうなってるんだろうな。怖いね。

主人公から姉への視線が、諦めとか見放しもあるんだろうけれども、徹底して距離のある親戚のおっさんって感じなのもきつかったな。身近にいる人の視線ではないというか、こいつがどうなろうと俺は関係ねえけど、でも一応注意だのはしておくか……という、将来的な責任は負わない親戚のおっさん。
これは主人公が他の子供に話しかける部分でも時々出るし、年齢不相応過ぎる発言も多いので、単純におっさん台詞なのかもしれない。

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