「教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 6時間目」違う立場の人間の考えなんてわからない

★★★★☆,MF文庫Jお仕事,ロリ,現代

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 6時間目

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 6時間目

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あらすじ

再び夏がやってきた。
天王山の夏だ。
中学受験が迫る凛たち仲良し小学6年生に、奇妙なトラブルが発生。
塾講師の天神は教え子の退塾を避けるため、女子高生たちに特別講義を依頼する。
しかしそのせいで、ヤヤ・冬燕・星花と浴衣デートに赴く必要があり――
「天くん、また浮気した?」
「本気とか浮気とか馬鹿じゃないの。別に、私は浮気でもいいんですけど……」
「ちょいちょいちょい、わたし、わたしは――!?」
一方、アニメ化が決まった星花は写真集を出版即大ヒットさせ、冬燕は天神のもとでバイトを始め、ヤヤは復讐計画を立てだした!?
天才と凡才、大人と子供。この世界には断絶だけが横たわっている。
だけど、それでも――
これは、手を伸ばして掴む、恋と夢と才能の物語。

やった! 塾講師巻だ!! 先生が塾講師をしている巻だ!!
やっぱり塾講師をして子供は大好き!(っていうのをお題目のように唱えているが心の中では別に子供なんて好きじゃない)(と地の文では描いているが行動では子供のために身を粉にして駆けずり回ってくれている)という天神先生がすきだからこそ、ラノベ作家物や才能の物語としても面白いけれども塾講師パートがあると嬉しい。
前の巻で出て来た初代編集は、才能有る作家のために身を粉にしてツイッターでは自らを可愛いにゃあにゃあ喋りのキャラクターと化してでも本を人に届けようとし、自らを才能の奴隷と称している。彼に倣うならば天神先生は子供の奴隷だよね。子供の憂いを解くために身を粉にして駆けずり回ってくれている。そういう天神先生をもっと見たい。

でも4巻5巻とラノベ作家側メイン、そんでこの巻でも塾講師パートとラノベ作家パートが半々ぐらいになっちゃってるの見ると、やっぱりラノベ作家側パートのほうに比重を置きたいのかな。二足のわらじものってそのあたり他はどうなってるんだろう。ウルトラマン80のように中盤から片方の描写がなくなったりというのが多いんだろうか。
どちらかのほうが人気出たらそっちがメインになっちゃうのは仕方ないんだろうけれども、1巻ぐらいの案配が好きだったな。

今回は大人が子供に理想というかこうあってほしいを押しつけてる話だった。

モンスターペアレントである凛の母親が凛の転塾について天神先生にキレなかったというのが冒頭に描かれていたのが全部の伏線だった。かなり序盤から出てて天神先生が言及してるのに、それ以後のシーンが全部濃ゆすぎて記憶に残ってなかった。物語がうますぎる。
凛の母親は、誰が仕掛けてなんでこうなったか知っていたからこそ天神先生の家庭訪問でもキレなかったし、今まで自分の方が下にいると思っていた楓の母親にマウントを取れる機会だとむしろ喜んでいた。
楓は母親に失望されたくなくて裏アカを作って自分の誹謗中傷をしたしそれを話せなかったけれども、凛は少なくともその部分について親に話すことは出来たんだな。それだけ凛のほうが楓より幼い部分があるとはいえ、結局母親同士のマウント合戦に利用されたの、凛があまりに不憫だ。大人たちの都合とプライドに巻き込むんじゃねえーーー!!

子供って大人を見ていて大人に忖度するよね。楓は特に大人びていてみんなの見守り役だからそういう部分が強いけれども、鶉野妹も登場巻である2巻は猫の皮ならぬ狼の皮を被って大人からそう見られているし姉のためにと大人しくしていた。
楓は、高学歴で受験についても詳しい母親の自慢の娘でいたかったし、失望されたくなかった。だからこそ勉強を頑張ったし、成績が伸び悩んだときにそれを素直に自分の能力の問題や才能の問題とすることが出来なかった。だからこそ裏垢で叩かれているという外部要因を作ろうとした。
子供の浅知恵と言われてしまえばそうなんだけど、いくら大人びているといっても楓はまだ小学5年生だ。聡明な子供だとしても行うことは小学生の浅知恵に過ぎないし、けれども周囲の誰もが彼女に『聡明な子供』だから『成績も伸びるはず』『こんな馬鹿なことはしない』と押し付けていたのがしんどい。
最後の最後で凛が助けになってくれて本当に良かった。どうにかやべえ親から二人揃って逃げ出してほしいとは思うんだけれども、この親見る限り寮に入れてくれない可能性のほうが高そうなんだよな……タワマンっていうのが他者へのマウント要素なので、自分の娘に対してもタワマンから通ってますと言わせたがりそうで。

子供であるヤヤたちが理解できて、教師である天神先生はわからなかった。大人は子供を理解できないし、子供はそれでも大人のそうあってくれという姿に忖度しようとするっていうのが読んでて辛かった。

そんでラノベ作家パートの才能の差の話。才能があるものと無いものの差の描き方がエグいし残酷~。

SNS講座(よく考えたら楓の自作自演なので講座自体鶉野姉の辱めでほとんど終わったな……)で星花が有象無象のアンチに対して向けた発言が、あまりに火力が高すぎる。

「生意気だとか品性下劣だとか性悪尻軽女だとか、まあいいように書いてくださっていますけれども。なんだかおかしくなってきてしまいますね」
 星花はくすくす笑って、冬燕の垂れ流した悪口を暢気に読み上げる。
「いったい、自分を何だと思っているんでしょうね、この方は?」
 中身が冬燕だと知ってのことでは、ないらしい。
 本当に、正体を知らなくて。知ろうともしていなくて。
「わたしの悪口を書き連ねることで、きっとわたしと対等だと思っている。同じ土俵に立てると信じこんでいる。作家のわたしと同じ言葉を使って、作家のわたしと同じように世界へ発信しているつもりなのかもしれません。でもね」
 先ほどの犬猫大戦争よりもよほど辛辣で、よほど血の通わない評価を。
「悪口をつぶやいているだけの、あなたは──何者にもなれない」
 笑いながら、くだすことができる。

恐ろしいの「あなたは私の何を知っているのでしょう」ではなく「自分を何だと思っているのでしょう」なところだなと感じた。前の巻で鶉野姉が、星花を才能があって小説を書ける自分とは違う生き物だと認識しちゃっているからこそ、火力があまりにも高すぎる。

……という流れからの、最後の最後でアンチが多いからこそしょうもない動画でクソ炎上し写真集も発売中止でアカウント閉鎖がデカく現れるし、アンチが多いのそこで利用するかと思ったし、そして星花が小説を書いていないというのにぞっとした。
今まで何があろうと書き続けていた星花だ。天神先生にド長編独自設定小説を読ませつつ、ラブコメも同時進行で書いていた星花だ。物語を書くことが好きな星花が、箱根旅行に来ても書いていた星花が、出せる形のものを書いていない。すごい息苦しいしつらいししんどいんじゃないだろうか。自分は書き続けるものというのが頭に刷り込まれていた場合、強迫観念に近いものにも悩まされる。

箱根旅で星花は読んでほしいただ一人に向けて書いている的なのを言っていた。それが消失してしまったという形なのかな。そしてラストでヤヤが新しく書いた小説をぶつけてきて、今度はヤヤにぶつけてやりたいという殺意にも似たものでやる気が復活……したのかな、これ。次の巻でも書けてなかったら怖いな。

ヤヤの高火力小説でも思ったけど、この人に読んでほしい、この人に刺したいと思って書く小説は強い。完全別の関係ない小説だけれどもこんな小説書かなければよかったもたった独りの誰かのために小説を書く物語だ。それと同じく、誰かたったひとりに読んでほしくてその人のために書いた小説って特攻がすごいし、そしてその人に近い人には結構刺さる。同人でも良く聞く話(フォロワーにぶっ刺そうとして書いた特殊物が案外感想をもらう)。

マーケティングなんかでもペルソナを用意してその人に刺さるように書けっていうもんな。案外この星花をぶっ刺すために書いた小説、他の人にも刺さって星花の本をこすヒットになるかもしんない。

大人は子供がわからないし、子供は大人がわからない。才能があるものは才能がないものをわからないし、才能がないものは才能があるものの苦悩を理解できない。そんな話だった。

それにしてもこの話、ヒロイン戦争に関しては本当に何も興味がないので、中学生高校生たちが主人公取り合ってても無なんだよな……。微笑ましいな、子猫が暴れ回っているなぐらいの感情はあるけれども、あまりに恋愛的な期待や希望や楽しさが無。子供が頼りになる大人を格好良く思って恋愛感情抱くのってあるよな、でもそれで手を出す大人はガチでやばくて格好良くなくて頼りにしちゃいけない大人です。
天神先生が天邪鬼で意地悪な人なので、現状星花や鶉野姉やヤヤにそういう意味での興味描写は薄くされてるせいで逆になにかあるんじゃないかと疑心暗鬼になっているところがある。人間面倒くせえな!

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