「棘の家」転がり転げて地獄へ一直線
あらすじ
家族全員が、容疑者だ。
穂刈は、クラスで起こるいじめに目を反らすような、事なかれ主義の中学教師だった。
しかし小6の娘がいじめで飛び降り自殺をはかり、被害者の親になってしまう。
加害児童への復讐を誓う妻。穂刈を責める息子。家庭は崩壊寸前だった。
そんな中、犯人と疑われていた少女の名前が何者かにインターネットに書き込まれてしまう。
追い込まれた穂刈は、教育者としての矜持と、父親としての責任のあいだで揺れ動く……。
面白かった。
中山七里の小説ってラストのどんでん返しがデカく襲いかかるタイプの物語なのかなと思っていたし、実際この小説も『どんでん返しの帝王が~』という文章がアマゾンの紹介にあったからそういった類の物語なのかなと想像していたら全然違った。
むしろ家族の裏の顔や、人間の感情を動かすタイプの物語だった。
無責任かつ簡単に掌返しする一般的な人間として出てきたネットの人々やマスコミの存在が面白かった。
主人公の娘がいじめで飛び降りたものの、事なかれ主義の学校は詳しい調査もしないし、わかったことも教えてくれない。警察だって頼りにならない。そんな主人公たちのもとへと訪れたのはワイドショー的なマスコミ。何もわからないよりはとマスコミに事件の情報を売り飛ばしたことにより、主人公たちは一気に『世間一般的に知られる事件の当事者』として巻き込まれていく。
顔の見えない無数の人々がマスコミに出た情報から推測し憶測を広げgoogleマップで実際の場所を特定していくさまは、5chのヲチスレあたり覗いたらありそうでエグかった。
この人達って結局のところ自らの正義を振りかざし、無責任に石を投げられる相手を探しているだけなんだよね。だからこそ主人公たちのほうに非があるのではないかと思われた瞬間に簡単に手のひらを返す。被害者と加害者が入れ替わった瞬間に彼らは正義の側に立つために主人公らに石を投げ始める。
5chの鬼女板がメインのイメージなのかな? 若干言葉使いが違うように感じられたけれどもそのあたりはpixivで一時期流行ってた2ch風小説みたいだなーと思いながら読んでいた。
なんとなくだけど、旭川のいじめ事件を参考にしてそうだなとも感じた。だったらコレコレみたいなあたりも出してきたらいいのにな。
最初は教師としての立場から娘の小学校の教師へ追撃の手を緩めてしまっていた主人公が、自分たちが加害者の側になってしまったことで教師としての居場所を失い、結果的に父親という立場にスライドしていくのがなんというか……哀れというか見事というか。
冒頭と中盤での妻との食事風景の違いがエグくて良かった。