「インフルエンス・インシデント Case:03 粛清者・茜谷深紅の場合」個人的にはこの巻だけ刺さらず
インフルエンス・インシデント Case:03 粛清者・茜谷深紅の場合(3)
あらすじ
粛清者・茜谷深紅。彼女がSNSトラブルの「萌芽」に拘泥する理由とは?
「…………冬美?」
連絡先も生死すらも不明だった親友・冬美と予期せぬ再会を果たしたひまり。
しかし、インフルエンサー・茜谷深紅と行動を共にし、様変わりしてしまった冬美にかける言葉は見つからなかった。
「茜谷深紅とは関わるな」
白鷺教授にそう言われたものの、ひまりは冬美の様子が気になっていた。
一方、RootSpeak上で話題になっているあるハッシュタグの広がりと連鎖するように、若者の自殺が増加。教授はそこに危険な思想を読み取り、ひまりとともに調査を始めるが――。
ひまりと真雪、凛や夜鶴をも巻き込み、白鷺ゼミが最大の事件に立ち向かう!!
うーん、読み終えて「刺さんなかったな……」となってしまった。
他の巻はこちら。
突然でかくなるスケール
SNSで自殺させるための洗脳を行うっていうのは、ネットでいつしか起こるかもしれない事件としてめっちゃ面白かった。
今まで描かれている炎上事件がわかりやすいように、他の誰かがやっているからっていうことでネットで何かを行うのってある。炎上に代表されるように他の人が叩いているから叩くだとか褒めているから褒めるだとか。玲華がエコーチェンバー現象を出していたとおり、周囲の人がしているからと簡単なお題から進んでいくというのはあるある。
でもそれが自殺までたどり着くだろうか?とは思ってしまった。簡単なものからステップアップしたとして、たかだかネットのお題ごときで自殺というのはお題内容がデカくなり過ぎであり、やるか?とそこで立ち止まってしまった。
これは1巻の真雪のストーカーや顔が知られているからの暴行、2巻の昔の仲間がやってきた!と比べて突然リアリティが変わっちゃったからそう思っちゃったんだろうな。
全体的に乗れずに終わってしまった
自殺オフ会の場所へ向かわないように突発オフ会を開いて足止めをする夜鶴と真雪のシーンはめちゃくちゃいいシーンなのになんか乗れなかった。
ひまりの心にずっといた冬美との直接対決も、熱いんだろうけれどもあんまり乗れなかった。
どちらも作中の感情にこっちの感情が乗り切れてなかったのが問題だろうな。
舞台なんかでも終盤で役者が感情的に台詞を語っているにもかかわらず自分では乗れないっていうのが稀によくあり、それと同じ気分を味わっちゃった。なんともうーん……みたいな。
ひまりと真雪の恋の決着も同じくあんまり乗れず。これに関してはもうほとんど消化試合みたいになってたよね。
この巻自体があんまり二人の恋愛部分は多くなかったし、そもそもひまりと真雪の一緒のシーンが無かった。その分ひまりと玲華のバディ部分が多かったのが嬉しかったけど。
最後の最後、真雪の告白に対するひまりの答えが明確に描かれないのもずるいなって思っちゃった。
ひまりが真雪を想ってるのは今までの描写からして間違いないし、もう確実にくっつくと思うんだよ。ここで出る答えもOKしかないとはわかるんだよ。
でも物語でここまで引っ張ってきたんだから、読み手の想像におまかせしますじゃなくて、ひまりの言葉としてちゃんと書いてほしかった。読み手による想像って結局二次創作にすぎない。こうするかもしれない、こうだったらいいなでしかない。そうじゃなくて、ちゃんと作者の言葉で『ひまりはこう答えました』って物語にしてほしかった。
玲華は人の心がわからないけれども理解している
こんだけ文句書き連ねてるけれども、最後の最後、玲華と茜屋の会話のシーンはめっっっっっちゃ良かった!!!
今まで散々人の感情がわからない、だが想像することはできるとひまりに繰り返していた玲華。想像ってちょっと俯瞰じゃん。完全に実感としてではないじゃん。だからこそどうすれば折れるか最も理解しているっていうのが本当に良かった!
ひまりの感情でも冬美の友情でも揺らぎはしても折れなかった茜屋の芯の部分である『自分の行動で人を殺した』、それを『本当はその人死にお前は関わっていない』と折ったのめちゃくちゃアガった。神様が人に引きずり降ろされる瞬間は良いものだ。
総合として、2巻まではそれぞれ好きだったけど3巻が一気に合わなかった物語って感じだった。
インフルエンス・インシデント Case:03 粛清者・茜谷深紅の場合(3)