※妹を攻略するのも大切なお仕事です。 (MF文庫J) 弥生志郎
あらすじ
ラノベ編集兄×イラストレーター妹! 熱血創作妹ラブコメ、ここに開幕!
ラノベ編集者の賀内亮二には、絶望的なくらい仲が悪い妹・涼風がいる。
昔は「お兄ちゃんに初めてをあげるね?」なんて危ない約束をするほど可愛かったというのに、今では「お兄ちゃん」とすら呼んでくれない。
けど、編集者の仕事は妹を忘れさせてくれるほど容赦無い。
そう、アニメ化もした人気作のイラストレーターが怪我で降板してしまった今なら特に!
必死で後任を探すがなかなか見つからず、そんなある日、賀内は大人気エロゲのイラストに一目惚れし、その原画家に仕事の依頼をする――が、打ち合わせの場に現れたイラストレーターは、未成年で妹の涼風だった!?
世界一仲が悪い兄と妹を巡るライトノベル×ラブコメ、ここに開幕!
- 仲良くない妹が次第にデレるのが好きな人
- なにかに強い情熱を持って働いているのを見るのが好きな人
- 夢破れた人の、それでも夢への強い情熱が見たい人
- ツンデレ萌えの人
ラノベのレーター探してエロゲ会社に連絡取ったら出ててきたのが数年間まともに話してないぐらい仲の悪い妹だった
って情報多すぎるしレベル高すぎるでしょ。
本当は兄を未だに好きだけど過去のことがあって素直になれない妹と、見知らぬエロゲの絵に一目惚れして絶対に代わりのイラストを描いてほしいと声をかけたら相手が妹でビビる兄。
現在会話がないぐらいに仲が悪い妹と、次第に仲良くなっていくお話。
妹が兄のことをさほど嫌っていないけれども過去のあれこれがあるからツンツンしている、というのが傍から見ていてわかるぐらいだったので、読んでいてああ可愛い、これはデレたいのにデレらんないんだな、言いたいことはあるし、兄貴の才能を心の底から信じてたんだなと思えてニヤニヤしてしまった。
ツンデレはツンデレでもこういう可愛いツンデレはいいよな。
ひねくれすぎてなくて、好意がちゃんと分かって、他人からもわかるぐらいで、でも兄にだけは伝わらないようにしてる。
この塩梅がとても良かった。
兄も兄で、妹から邪険にされているからあまり構わないようにしているだけで、交流が増えたら増えたでちゃんと兄貴らしいことをしてやるぐらいに彼女のことを大事にしていて良かった。
本当に関係性が良い兄妹だった。話全体のシリアスとコミカルの配分も良い感じで読みやすかった。
仕事に一生懸命な人は格好いい
頼んだイラストレーターが妹だった!というハプニングはありつつも、主人公はラノベの編集として動いているのが格好いい。
主人公はひたすら打ち切りや絶版を避けようとする。
妹の、サービスシーンを描くのは嫌だという信念を、理解して尊重しつつもできれば描いてほしいと思っている。
それは当然売れるためだけれど、売れなきゃならないのには理由がある。
「……誰かが面白いって言ってくれるライトノベルじゃ、駄目なの?」
「それだけじゃ駄目だ。情熱がないと良い作品は生まれない。けど、打算がないと良い作品も生まれない。できるなら俺は、この二つを持っている人間と仕事がしたいな。……打ち切りになる惨めさは、編集者も作家もイラストレーターも同じだ」
「――俺たちは売れなきゃ駄目なんだよ、涼風」
ほんのわずかに、涼風が戸惑う。
それはきっと……賀内が、胸が裂かれるくらいつらそうな顔をしていたから、だろう。
「あれは売れなかったけど良い作品だった、なんて言葉は慰めにもならないんだ。自分がイラストレーターだって誇りを持つためには、たくさんの人に認められなきゃならない。……俺はもう二度と、クリエイターが不幸になるような作品を作るわけにはいかないんだ」
このあたりの、売れなきゃならない、でもそれは拝金主義だからではない、売れなければ続きが出ないしそのラノベは消えてしまうからだ、っていうあたりがさーーー……。
主人公が仕事にひたむきで、真摯で、ちゃんとまっすぐに向き合って誇りを持ってくれているのがすごく良かった。
かなわない夢は呪いだ
「夢っていうのは同じなんだよ。呪いを解くには夢を叶えなけりゃならない。でも、途中で挫折した人間は、ずっと呪われたままなんだ」
仮面ライダー555 第8話
一部の人種には有名な台詞。まさにこれだった。
主人公は過去に作家になる夢があったものの、大学卒業の頃になってもどこにも引っかからなかったため諦める。
兄が書いた本に絵をつけるのが夢だった妹は、約束を破ったのだと兄を責め、その後は口を利かなくなる。
結局自分の未来を考えて、そして兄のことを考えているが故のすれ違いなんだなあと。
夢に向かって、むしろ夢がかなってキラキラしている妹と、夢を一度諦めている兄。
落差というか、対比というか。そのあたりが本当に良かった。
それに、夢を諦めることって別に悪いことではないんだよね。
悪いことではないというか、そうしないと生きていけない。
私との約束は嘘だったの、と言われた。
お兄ちゃんの夢ってそんなものだったの、とも言われた。
全く、涼風の言うとおりだ。本気で小説家になりたいのなら、内定証書など破り捨てて実家住まいのフリーターになって小説を書き続ければ良かった。そうでなくても、この業界には仕事をしながら小説家になった人間ならば何人もいる。彼等みたいに仕事終わりの僅かな時間を小説に捧げ、いつか己が作家になる日を思い焦がれていたなら、賀内だって夢が実現する可能性はあったはずなのだ。
そんな努力をする度胸などなかったから、こうしてラノベ編集者を続けている。
思いし、しんどいし、当然で、苦しい。
生きていくには「小説家を目指す!」なんて夢を掲げ続けては生きていけない。
だから、仕事していない妹のまっすぐな批判は上滑りしつつも痛いし、そして妹が夢を叶えたからこそしんどい。
主人公がすごいのは、最終的に未だ夢自体は捨てきれていないのに、それでも妹に対して僻みの心を持っているシーンがなかったことだよ。よくぞその状況で!? よくぞその心境に!? バケモノか!? 聖人か!?
でも、かなわない夢は呪いだ。
主人公にずっとまとわりついているし、周囲にあった。
けれども最終的にそれをあんな強引な方法で解消して、そして呪いではなく夢になったそれを改めてきれいに捨てられたのが本当にすごく良かったほんと良かった……。
ものすごくラストのきれいな物語だった。
個人的には、兄と妹では土壌の違いもあると思う。
兄が投稿していたのは新人賞で、妹が投稿していたのはpixiv。
多数の人間の目に見られるpixivと、下読みの選考を抜けられなければ――つまりは一次選考落ちならばたった一人の目にしか止まらない新人賞は全く違う。
pixivにあるような10点やブクマをつけてもらうこともなく、評価シートを見るだけの、たった一人で結果を見続ける新人賞投稿だからこそ、兄は諦めた部分もあるのではないかなと思った。
もしかしたら、なろうだったら変わっていたのかも、とも。
そういえば、読んでてなんとなく思ったんだけど、この話って何かの番外編かな。
もう一組の兄妹ペアが当然のように出てきてお前ら俺たちのこと知ってんだろって顔してた。誰だお前ら。