「ネメシスの使者」果たして死刑は必要なのかを問う(ように見せかける)のがうまい

★★★★☆

あらすじ

死刑判決を免れた殺人犯たちの家族が殺される事件が起きた――。

殺害現場に残された“ネメシス”のメッセージの謎とは?
ネメシスとはギリシャ神話に登場する「義憤」の女神。

事件は遺族による加害者への復讐か、はたまた司法制度へのテロか?
ネメシスの真の狙いとはいったい……?

ドンデン返しの帝王が本書で挑むのは「死刑制度」。
『テミスの剣』の渡瀬刑事が追う社会派ミステリー最新作。

冤罪からの死刑の「テミスの剣」、死刑回避からの事件の「ネメシスの死者」

テミスの剣の渡瀬刑事を主人公格に置かれた物語。続き物かと言われると完全に別物語であるが、中山七里作品自体がスターシステムなので、岬刑事の息子の話が出てくる程度には渡瀬刑事の過去話も出てくる。

テミスの剣が『死刑という判決は正しいのか?もし犯人が実は冤罪だったら?』という物語であるのに対して、今回は『果たして死刑回避で無期懲役という判決は正しいのか?人を殺した犯人がのうのうと生きていて良いのか?』という物語。
冤罪事件で死刑判決を勝ち得てしまった渡瀬刑事だからこそこの物語の主役に据えられるのがまさに正しい。

殺されていく、人を2人殺しても死刑判決を免れた加害者の家族たち。
たしかに、加害者は死刑ではなく懲役刑となり刑務所に入ったが最後、三食飯付きで仕事もあれど衣食住は確約されている。これって大事な人を殺された被害者遺族からしたら相当腹が立つよな。
自分の大事な人を殺した相手がせめて死刑になってくれ、人を殺したんだからお前も死ね。そう思って赴いた裁判で、死刑ではなく無期懲役。そんなん出されたら腹が立つし、相手を殺そうと思うかもしれない。
被害者遺族の傷ついた心は、その家族関係はどうやったら報われるのか。2種の被害者遺族の描写がしんどかった。

対して加害者の家族とて、視点を変えたら被害者だ。
ネットの人間やリアルの人間からあの事件を起こした人間の家族だと一方的になじられ叩かれ続ける。本人は何ら悪いことをしていないのに、家族だからというだけで誹りを受ける。
このあたり確かにめっちゃおかしいよな。息子が人を殺したからと勤め先もやめて逃げるように引っ越していった描写などがほんとしんどい。

ただちょっと気になる部分もあった。

「二宮をあんな化け物に育ててしまった責任は、同居していた親にもある……。 (後略)」

こういう部分で製造責任という表現をするあたりもなんだけど、登場人物の幅が広いというよりも、作者ネットに染まってんなあという思った。

とはいえ、死刑か死刑廃止かの部分で、最後の最後で渋沢の発言が刺さった。

「(前略)長期間牢に繫がれた人間は、一般社会への適性を少しずつ失っていく。彼らが出所してもすぐ戻ってくるのは、心神が外界で暮らせないほどに変質してしまっているからですよ。懲役というのは、内側から人間性を殺していく刑罰なのです。一般の常識にも馴染めず、何の前科も持たぬ人との精神的な障壁を毎日のように思い知る。(後略)」

テミスの剣から何度も繰り返し言われていた、ムショに入った人間はそこが居心地が良いからこそ何度も戻ってきてしまう、むしろシャバに出たら若干の居心地の悪さやタイムスリップしたような感覚を覚えてしまうという描写があってからのこの台詞は強い。
もしかしたらテミスの剣とネメシスの使者、この2冊を総括した台詞は個々になるのかもなと思った。

安定してスタンドプレーで証拠咥えてくる渡瀬、小気味好い生意気さの古手川

またしてもスタンドプレーで走り出す渡瀬が格好いい!! 前作のテミスの剣でもなんだけど、必要とあらば上司も掌の上で転がしつつ、警察という組織に縛られない認識で事件を追いかける姿勢が格好いい。
冤罪事件で自らが間違ってしまったのがずっと意識の根底にあるからこそ、今度こそは間違わない、次は間違えてはならないと自らを律して真実を追いかけている姿勢がいいんだよ。そのためにはスタンドプレーも辞さないし、どう考えても管轄外の事件も調べるし話を聞きに行く。
この作者さんの作品でよく描写される、警察手帳と手錠を咥えて生まれてきた猟犬という評、それに当てはまるのが渡瀬と犬養なんだろうな。

古手川は小気味好い生意気さが最高に可愛い。捜査会議のときにもろに相手を使えねーなあと見て態度悪いのめっちゃ可愛いですね。態度最悪だけど。最悪だから可愛いっていうか。ふてぶてしさが最高に良かった。
こういうめっちゃ可愛いキャラが出てくるのずるいなあ。好きだなあ。

苛烈に過ぎる渋沢も、今後また出てきたら最悪~~!って方向で好きになるかもしれん。

真犯人の動機がいきなり過ぎた

話自体は面白かったし、確かに思い返してみればそこのパートが妙に浮いてるなとは思ったんだけど、犯人である事務官の動機がいきなりすぎた印象があった。いや事務官周りの描写は若干オモロあるけど。身分証持ってるあたりとか。そこ笑っちゃった。

いきなり『過去に殺された恋人の復讐を自らの手で行うために刑務所に入る必要があった、そのために殺人を犯した』って言われても、その過去に殺された恋人部分が今まで出てきてなかったので、突然何を言い出した?感があった。そのせいで最後の最後でミステリーではなくやっぱりヒューマンドラマ……?と思ってしまった。

突然湧いてくる過去、もうちょい伏線張ってあればもう少し戸惑わなかったんだけど。でも下手に張ったら目立ってこいつが犯人ってわかっちゃうかな。いやでもテミスの剣といい動機の部分に関しては読者に察されないようにもともと作ってあるからこれでいいのかな。
でも無から湧いてくる動機と恋人、読者としてはマジでいきなりなに!?感があるんだよ。恋愛小説の溺愛系ヒーローがヒロインをこれだけ溺愛してくるのは、実は過去に二人は出会っていて、ヒロインがヒーローをちょっとした発言で救っていたからだ!というのがラストのラストにヒーローの回想で明かされるレベルのなにこれいきなりだな読者は知らんがな感があるんだよ。
恋愛小説のそのテンプレはヒーロー→ヒロイン溺愛の理由付けが無いと流石になーとつけられるものだろうけど、読んでるほうとしたらこれも似たようなもんなんだよ。
わたしは恋愛小説のそのパターンが好きではないからボロクソに言うし、今回も読んでてそこんとこ引っかかってしまった。

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